一つだけ言っておく。彼が酒呑童子に勝てる確率はゼロだ
次の日の朝、僕はとある大会に参加した。今日は休日だから学校はない。けど、バイトはある。だから、早めに帰りたい。ということで、僕は決勝までワンパンで相手を倒した。
「お兄ちゃん! 一緒にお弁当食べよう!!」
「おー、もうそんな時間か。まだ十時くらいかと思ってたよ」
「お兄ちゃんは酒呑童子よりスピーディーに相手を倒してたから多分時間の流れ方がちょっと変になってるんだよ」
「そうなのかなー? はむっ」
僕が夏樹(僕の実の妹)のスペシャルおにぎりを地下闘技場の客席で食べていると、一条先輩がやってきた。
「いよいよ決勝だね。調子はどうだい?」
「うーん、まあ、普通です」
「普通かー。ん? 今日は昨日より落ち着いてるね。ここに来るまでに精神統一でもしたのかな?」
「うーん、まあ、似たようなものです」
「ほう、それは何かな?」
「夏樹の黒い長髪で僕の体を蜂の巣にしてもらいました」
「……え?」
「そんな目を点にしないでください。まあ、その反応が普通ですけど」
「ちょ、ちょっと待て! 君の妹の髪はたしかこの世のどんな金属よりも強固なんだろ? そんなもので体を蜂の巣にされたのか?」
「そんなものって言わないでください。夏樹の髪はこの世で一番美しいんですから」
「ねえねえ、童子ちゃん! 今の聞いた!? 私の髪、この世で一番美しいんだって!!」
「はいはい、そうですねー」
「はぁ……まったく、君は良くも悪くもいつも通りのようだね」
「それでいいんですよ。そうじゃないと、僕は多分今日死にますから」
「死ぬって、別にそこまで頑張る必要は」
「妹の目の前で敗北することは死を意味します。なので、僕はどんな手を使ってでも勝ちます。例えそれが人間の闇だったとしても」
「ま、待て! それはあまりにも危険すぎる!! 万が一、君の体が闇に支配されてしまったら誰が君を止めるんだ!!」
「ここには一人で世界征服できる力を持っている存在が結構いるのでその心配をする必要はありません」
「ひ、一人で世界征服できるだと? 今のは冗談か? 冗談だよな?」
「さて、どうでしょうね。あっ、先輩も食べますか? 夏樹のスペシャルおにぎり」
「あー、お兄ちゃん、それはお兄ちゃん用だからこっちにしないと先輩死んじゃうよ」
死、ぬ?
「え? そうなのか? ところで僕用のおにぎりには何が入ってるんだ?」
「知りたい?」
「いや、いいよ。夏樹の愛情がたっぷり詰まってるってことだけは分かってるから」
「うーん、まあ、一応正解だねー。お兄ちゃん、これ、その女に渡して」
「その女じゃなくて一条先輩だ」
「うん、知ってるよ。私の敵の名前は一度聞いただけで覚えちゃうから」
「すごいなー、僕人の名前覚えるの苦手だよー」
「それはお兄ちゃんがその人に興味がないからだよ」
「まあ、そうだろうなー」
こ、この兄妹はやはり変だ。私の知っている兄妹の会話ではない。この二人は本当に兄妹なのか?
「一応、兄妹だよ」
「さ、覚生徒会長!? どうしてここに!?」
「暇だったから来た、ただそれだけだ」
「そ、そうですか」
「一つだけ言っておく。彼が酒呑童子に勝てる確率はゼロだ」
「……え?」
「さすがにこれだけでは分からないか。では、少し補足しておこう。この大会のルールに相手を殺してもいいという一文を書き加えれば、彼は確実に勝てる」
「そ、それは本当ですか!?」
「ああ、本当だ。まあ、酒呑童子との戦いが始まる前にそれを実現できたらの話だが」
「今すぐ父にそのことを伝えてきます! では、私はこれで!」
「ふふふふ、これで彼は確実に勝てるな。よし、ではそろそろ特等席まで移動しよう」




