左手に持っている刀
おっ、あそこか。河川敷の橋の下に小鬼が十匹くらいいるな。えっと、やつらのターゲットは今にも破れそうな結界の中にいる妖精三匹か。そのうち一人は母親、残りは娘か。あー、なるほど。小鬼共の狙いは母娘丼か。
僕はそんなことを考えながら小鬼たちの元へ向かい、やつらを軽くのしてやった。
妖精たちは僕に何度も感謝の言葉を述べた。僕は「はいはい。まあ、また何かあったら呼んでくれ」とだけ言ってその場を後にした。
*
「今日の晩ごはん何にしようかなー。よし、決めた。今日はコロッケにしよう」
「ねえ、そこの君。……ちょっと無視しないでよ」
「あっ、すみません。ちょっと考えごとしてて」
僕が夜道を歩いていると、僕に声をかけてきた女性がいた。その人はうちの高校の制服を着ており、黒髪ポニーテールと黒い瞳とと左手に持っている刀が特徴的だ。
「それって今日の晩ごはんの献立のこと?」
「あっ、はい、そうです」
「へえ、いつもそうなの?」
「えーっと、うちに座敷童子が来るまでは僕が家事担当でしたね。今は分担してやってます」
「へえ、そうなんだ」
「あ、あの、それ真剣ですか?」
「そうだと言ったらどうする?」
「多分、通報します」
「多分かー。優しいんだね」
「いや、僕は別に優しくなんかないですよ。そうした方が面倒なことにならないからそうしているだけです」
「そっか。あっ、そういえば、自己紹介がまだだったね。私は」
「父ちゃん! こいつだよ! 俺たちをいじめたのは!!」
あっ、さっきの小鬼たちだ。
「何? こんな人間のガキに負けたのか? 情けない! それでも鬼の子か!!」
「えーっと、君の知り合い?」
「まあ、一応」
なるほど。大きな棍棒を持っている赤鬼は小鬼たちの父親か。というか、いじめてたのはお前らの方だろ。
「なんだ? その目は。やろうってのか?」
「いや、別にそんなつもりは」
「そうか。だが、お前は今日ここで死ぬ!! さっさとくたばりやがれええええええええええええええ!!」
あー、こいつの動きものすごく遅く見えるなー。よし、試しに人間の闇を使ってみよう。
「えいっ」
「……っ!!」
「と、父ちゃーん!! クソー! これで勝ったと思うなよー!!」
あれ? ちょっとみぞおちを殴っただけなのに気絶しちゃったぞ。人間の闇すごいな。
「噂通り……いや、それ以上だね。ねえ、雅人くん」
「何ですか?」
「私と勝負してよ」
「別にいいですけど、早めに終わらせますよ」
「おっ、勝つ気満々だねー。じゃあ、そこの公園でやろっか」
「はい、分かりました」




