闇の種
オルゴールの調整が終わった直後、座敷童子の童子ちゃんはこんなことを言った。
「調整は終わりましたが、雅人さんの心に闇の種が植え付けられています。このままだといずれ心を養分にされて闇の花が咲いてしまいます」
「闇の花? それが咲くとどうなるの?」
「雅人さんが闇属性になってしまいます」
「それって一生今日の昼休みの時に見たあの黒いお兄ちゃんのままってこと?」
「はい、そうです」
「そんなのやだ! ねえ、どうやったらその種を取り除けるの!? 教えてよ! 童子ちゃん!!」
「方法はあります。ただ」
「ただ、何?」
「新しい苗床が必要なんです」
「それってお兄ちゃんの心の中にある闇の種を誰かの心の中に植え付けないといけないってこと?」
「はい、そうです」
「じゃあ、私が」
「ダメです」
「え? なんで?」
「血の繋がった家族の誰かに闇の種を植え付けると急成長するからです」
「え? そうなの?」
「はい、そうです」
「へえ、そうなんだ。ところでなんで童子ちゃんはそんなこと知ってるの?」
「そんなの決まってるじゃないですか。この世界にそれをばら撒いたのが私だからですよ」
「……え?」
「安心してください。あれは本来、発芽しないものですから」
「えっと、今それがお兄ちゃんの心の中にあるんだけど」
「あれは闇が一箇所に集まった時に闇を封じ込めるために出現します。しかし、容量を越えると」
「発芽しちゃうんだね」
「はい、そうです。まあ、とにかくさっさと終わらせましょう。あっ、私が闇の種を食べたら容赦なく私のお腹を貫いてください。そうしないとまた誰かに植え付けないといけなくなりますから」
「分かった」
「では、さっそく始め……」
童子ちゃんが最後まで言い終わる前に闇でできている針が彼女を蜂の巣にした。それは私がよく知っている人物によって作られたものだった。そう、私のお兄ちゃんだ。
「童子ちゃん! 大丈夫!?」
「早く……逃げて……ください……」
「そんなことできないよ! さぁ、早く一緒に逃げよう! それとどうしてこんなひどいことするの! お兄ちゃん!!」
「お兄ちゃん? あー、この体の前の所有者のことか。あいつならとっくに死んだぞ」
「そんなの嘘だ! 嘘に決まってる!!」
「嘘だと思いたいのならそれでいい。どうせ今日この世界は滅んじまうんだからよ」
「な、何それ! なんでそんなことしようとするの!!」
「いいかい? お嬢ちゃん。この世界はとっくに腐ってるんだよ。腐ったミカンよりブヨブヨしててドブより汚い。そんな世界で生きていくのは正直辛いしごめんだ。お前もそう思わないか?」
「思わないよ。だって、私にはお兄ちゃんがいるから」
「あいつはもういない」
「いる!!」
「いない」
「いるったらいる!!」
「じゃあ、仮にいるとして俺をどうやって倒すんだ? 昼休みの時より恐ろしく強くなってるこの俺を」
「倒すよ、絶対に。私の全部を使って」
「おもしれえ……やれるもんならやってみろ!!」
「ごめんね、お兄ちゃん。あとで優しく介抱してあげるから許して」




