オルゴールの妖精
登校中、電柱のそばに座り込んでいる女の子と出会った。彼女はオルゴールを持ったまま俯いている。
「ねえ、君」
僕が彼女に声をかけると彼女はこちらをチラッと見た。彼女の黒い瞳はこの世の嫌なものを無理やり詰め込んだかのように濁りきっていた。
「お兄ちゃん、早くしないと遅刻しちゃうよ」
「夏樹、先に行っててくれ」
「やだ」
「どうしてだ?」
「お兄ちゃんと一緒に登校したいからだよ。それと、その娘が持ってるオルゴール壊れてるよ」
「なんでそんなこと分かるんだ?」
「そんなの一目で分かるよ。だってそのオルゴール、その娘の心なんだもん」
「心? このオルゴールが?」
「うん、そうだよ」
「そうか。夏樹はすごいなー、なんでもお見通しだ」
「そうかな? というか、お兄ちゃんの方がすごいよ。この娘と目を合わせてもなんともなかったんだから」
「え? もしかして目を見たらダメなやつなのか?」
「うん、ダメなやつだよ。良くて発狂、悪くて死亡するから」
「ええ……」
「……ん」
その娘は僕の手を握ると僕にオルゴールを差し出した。
「えっと、開ければいいのか?」
「……うん」
「そうか」
僕がオルゴールの蓋を開けるとその中から心地よい音色と共に金色の光が出始めた。
「ちょ! 眩しいな! おい!!」
「……おめでとう」
「え? これってもしかして当たり、なのか?」
「……うん」
「そ、そうか。でも、なんで僕なんだ?」
「……あなたは優しくて、あったかい。だから、私の心はあなたを選んだ。さぁ、私の心を受け取って。そして私と一つになって」
「おいおい、もう少し違う言い方はできないのか? まあ、いいや。ありがとう、大切にするよ」
「……嬉しい。ああ、これでやっと一休みできる」
彼女はオルゴールと共に僕の体の中に入ってしまった。箱系の話はだいたい後味が悪いけど、今回はそんなことなかったな。
「オルゴールの妖精は不幸を吸い取る。けれど、それは彼女の体の中で腐っていく。休まないと心身が濁る。だから、今日は早めに寝てまた明日頑張ろう」
「オルゴールの妖精かどうかは分からないけど、なんとかなって良かったね。でも、早くしないと遅刻しちゃうよ」
「そうだな。じゃあ、行くか」
「うん!!」




