口の中に
家で寝ているはずの夏樹(僕の実の妹)が公園にやってきた時、座敷童子の童子は文字の力を使ってこの場から逃げようとした。しかし、彼女の黒い長髪に拘束されてしまったため、それはできなかった。
「ねえ、童子ちゃん。私のお兄ちゃんに何しようとしてたの?」
「き、キスです」
「嘘つき……。絶対交尾しようとしてたよね? 私がここにたどり着く前に既成事実を作っておけば勝てるとでも思ってたの?」
「はい、そう思っていました」
「そっかー。まあ、それは別に悪くはないよ。私も童子ちゃんだったらそうすると思うから。でも、私はお兄ちゃんの妹なんだよ……。妹からお兄ちゃんを奪ったら妹じゃなくなるんだよ。ねえ? 言ってる意味分かる?」
「分かりません。あなたは雅人さんに依存している頭のおかしい妹です」
「ひどいなー。私、そんなんじゃないよー」
「いいえ! 確実にそうです! いい加減、兄離れしてください!!」
「兄離れなんてするつもりないよ。それよりさっきからピーピーうるさいねー。口の中にヤツメウナギ突っ込んであげようか?」
「私はあなたに屈するつもりはありません! さぁ! 今すぐ私と戦いなさい!!」
「うるさい! 私に命令するな!!」
よし、今だ!!
「夏樹!!」
「なあに? お兄ちゃん。今ちょっと取り込み中……!?」
ああ、私今、お兄ちゃんとチューしてる……。すごい、何これ。頭、おかしくなっちゃう……。
「夏樹、早く童子を解放してやれ」
「はーい……」
ふにゃふにゃになっている夏樹をお姫様抱っこした僕は下を向いている童子の元へ向かった。
「童子」
「何ですか?」
「早く帰らないと朝になっちゃうぞ」
「……そうですね。早く帰りましょう。ですが、私は絶対に諦めません。いつか必ずあなたを私のものにします」
「そうか。でも、夏樹の髪をどうにかしないと何もできないぞ?」
「安心してください。おそらくその課題は多重結界でなんとかなりますから」
「多重結界かー。うーん、悪くはないけど、なんかそれでうまくいくビジョンが浮かんでこないなー」
「ですよね……。まあ、そのうちどうにかなりますよ、きっと」
「そのうちねー」




