瞬間冷却!!
僕が同じ部に所属している後輩の雪女『雪女 葵』の肩に手を置こうとすると、彼女は自分の体から冷気が混じった衝撃波を出して僕を拒絶した。
「お、お願いします……! 来ないでください……!!」
なるほど。僕を傷つけたくないから拒絶したのか。
「……なあ、葵。どうして悪霊なんかに取り憑かれたんだ? というか、霊力が暴走しかけてるな。大丈夫か?」
「大丈夫、です!」
「そうか。なら、触っても大丈夫だな?」
「ダメです!! 触らないでください!!」
「どうしてだ?」
「そ、それは……今先輩に体を触られたら先輩の命を奪ってしまうからです」
「そうか。なら、奪え」
「え?」
「僕がお前に命を差し出せば、お前は助かるんだろ?」
「そ、それは……そうですが。先輩は死ぬのが怖くないんですか?」
「何度か地獄に行ってるからそんなに怖くないよ。さぁ、奪え。ほら、遠慮するな」
「ち、近づかないでください!! 私は先輩を殺したくありません!!」
「そうか。でも、このままだとお前は確実に悪霊の器にされてしまうぞ」
「うっ! そ、それは嫌です」
「だったら早く僕の命を奪え」
「それも嫌です!!」
「じゃあ、どうすればいいんだよ……」
「え、えーっと、おそらく背中合わせなら大丈夫です」
へえ、手で触るのはダメだけど背中合わせは大丈夫なのか。
「分かった。じゃあ、そうしよう」
冷たい……。今にも背中が凍ってしまいそうだ。あれ? これって心臓付近に湿布貼ってるのと同じ状態じゃないか? ま、まあ、早急に悪霊をなんとかすれば大丈夫だろう。
「あー、先輩の背中すごくあったかいですー」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「あっ、悪霊出てきた」
「あっ、ホントだ。えーっと、瞬間冷却!!」
「……っ!?」
「おー、さすがだなー。葵」
「そ、そうですかー? これくらい普通ですよー」
「いやいや、今のは照準合わせと座標固定とピンポイント冷却ができないと無理だからお前今かなりすごいことやったぞ」
「そ、そうですかねー」
「まあ、とりあえず事件は解決したな。ところでどうして悪霊に取り憑かれたんだ?」
「そ、それはその……せ、先輩のことを考えながら慰めていたからです」
ええ……。
「え? あ、あー、そうなのか。なるほどなー。えっと、じゃあ、僕そろそろ帰るよ」
「そ、そうですか。泊まっていってもいいのに」
「え? なんだって?」
「いえ、何も。じゃあ、玄関までお見送りしますね」
「え? あー、そうか。じゃあ、玄関まで一緒に行くか」
「はい!!」
彼女はさりげなく僕の手を握った。うーん、やっぱり冷たいなー。でも、命の温もりは感じるな。
「それじゃあ、おやすみ、葵」
「はい! おやすみなさい! 先輩!!」
彼女は僕の頬に優しくキスをすると早足で家の中に入っていった。その様子を見ていた座敷童子の童子はなぜか不機嫌になってしまった。どうしてだろう。




