合掌
座敷童子と雪女の戦いはまだ続いている。
二人とも服も体もボロボロになっている。
どうして僕なんかのために争うのか。
童子。お前は僕の親でも何でもないはずだろ?
なのに、どうしてそこまで必死になるんだ?
雪女さん。君は僕と同じ学校の後輩で同じ部に所属している仲のはずだろ?
なのに、どうしてそこまで僕を求めるんだ?
「ねえ、お兄ちゃん」
「お、おう、なんだ?」
折り紙製の赤い鶴(なぜか夏樹の声が聞こえる)は僕の右肩にいる。
「今、どうして二人がお兄ちゃんのために必死に戦ってるのかって考えたでしょ?」
「え? あ、ああ、それは……まあ、そうだが」
妹は覚ではない。
妹は二口女だ。
だから、僕の考えていることが分かるはずがない。
「お兄ちゃん。私とお兄ちゃんは今年で十七年、一緒にいることになるんだよ? お兄ちゃんの考えそうなことなんて、すぐ分かるよ」
「そ、そうなのか?」
妹は「うん、そうだよ」と言う。
「そうか。それにしても、なかなか決着がつかないな。いつになったら、終わるんだ?」
「お兄ちゃん。一応、お兄ちゃんは助けてもらう立場にいるんだから、そういうこと言っちゃダメだよ」
ま、まあ、そうだな。
僕のせいでこんなことになってるんだから、おとなしくしてないといけないよな。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
この雪女……なかなかしぶといてすね。ふふふふ、久しぶりに強者に出会えましたね。
この座敷童子……強い! 文字使いって、こんなに厄介なの?
「あなたに一つ質問があります」
「……何ですか?」
座敷童子は髪を整えた後、こう言う。
「あなたはどうして鬼の力を宿していることを除けば、ごくごく普通の高校生である、あの人のことを求めるのですか?」
「そんなの……私が先輩のことを愛しているからに決まって」
座敷童子はピシャリとこう言う。
「嘘ですね。あなたは自分に嘘をついている。いえ、違いますね。あなたは誰かに操られている。そして、あなたはそれに気づいている。違いますか?」
「……まれ」
座敷童子は肩回しをする。
「何か言いましたか?」
「黙れ! 私は誰かに操られてなんかいない! 私は私が正しいと思ったことをやっている! だから、私はここにいる! そして、私は今日ここでお前を倒す!」
座敷童子は屈伸をする。
「そうですか。では、次で終わりにしましょう。かかってきなさい」
「調子に……乗るなああああああああああああ!!」
雪女が座敷童子にとどめを刺そうと突進する。
座敷童子は合掌すると、目を閉じた。




