スムージー
やーちゃんの世界。どこを見てもピンク色しかない。つまり色欲しかない世界なのである。
「雅人、私のこと好き?」
「ああ」
「そっかー。じゃあ……しよ♡」
「ああ」
「嬉しい! じゃあ、雅人の童貞もらうね♡」
私が雅人と一つになろうとした時、ただならぬ殺気を感じた。
「……来たか」
私の世界にやってきたのはブラコン妹と座敷童子だった。
「おい、何してる。今すぐお兄ちゃんから離れろ」
「嫌だと言ったら?」
「お前を蜂の巣にする」
「やれるもんならやってみろ。ほら、早くやれよ。どうした? できないのか?」
その直後、グサッと鈍い音がした。私が自分の胸を見るとそこには銀色の長髪があった。弱体化しているとはいえ、私の体を容易に貫いたそれは触手のようにウネウネ動いている。まるで本当に生きているかのように。
「これで終わりか?」
「ううん、終わりじゃないよ」
「そうか。なら、とっとと続きを」
やつは本当に私を蜂の巣にした。無言で銀髪を操るやつの目には光がなかった。
「……もう終わりか?」
「童子ちゃん、アレ出して」
「はい、分かりました」
「おいおい、いったい何をするつもりなんだ? まさかミンチにでもしようってのか?」
「違うよ。今から霊力で動くこのミキサーでスムージにするんだよ」
「は? す、スムージーだと? ふ、ふざけるな! 私を誰だと思って!!」
「お前が誰だろうとどうでもいい。私は私のお兄ちゃんを襲おうとしたお前を許さない。さぁ、おとなしくスムージーになれ」
「い、嫌だ! 頼む! 助けてくれ! 私の初恋の邪魔をしないでくれ!!」
あともう少しで私の体は元通りになる。それまでなんとか時間を稼がなければ。
「じゃあ、私の初恋の邪魔しないって約束して」
「は、はぁ? そんなのできるわけ」
「スムージー」
「わ、分かった! 約束する! だから、もう許してくれ!」
「うん、いいよ。許してあげる。というか、早くお兄ちゃんを元に戻してよ」
「わ、分かった!!」
なーんてな!!
「行け! 雅人!! あの女を殺せ!!」
「……」
「どうした! 早く行け!!」
ベッドに横になっているお兄ちゃんは静かに涙を流している。ああ、やっぱりまだ意識あるんだ。私はお兄ちゃんの唇にキスをしながら優しくお兄ちゃんの頭を撫でた。
「お兄ちゃん、私と一緒におうちに帰ろう」
「すまない、夏樹。僕は」
「謝らなくていいよ。それより一人で立てそう?」
「うーん、無理そうだな。三番目の足は元気なんだが」
「そっか。じゃあ、あとで私がスッキリさせてあげるね」
「え? いや、いいよ。それは自分でやるから」
「まあまあ、そう言わずに……ね?」
よし、今だ!!
「死ねえええええええええええええええええええええ!!」
「童子ちゃん、お願い」
「はい、分かりました」
「え? ちょ、い、嫌だ! 死にたくない! やめろ! やめてくれえええええええええええええ!!」
「童子、ミキサーを消滅させろ」
「はい、分かりました」
「お兄ちゃんは甘いよ」
「悪い。でも、多分やーちゃんは初恋っていう病に支配されてるだけなんだよ。つまり、僕と関わったせいで彼女はおかしくなってしまったんだよ」
「だといいけど……」
「夏樹、肩を貸してくれ」
「うん、いいよ」
「ありがとう」
やーちゃん(夜刀神)はガタガタ震えながら僕たちの目を見ている。うーん、どうやら恐怖に支配されているみたいだな。
「やーちゃん、おいで」
「いや……やめて……」
「大丈夫。痛くしないから」
「本当?」
「ああ、本当だ。さぁ、おいで」
「雅人……好き……大好き……」
「よしよし、やーちゃんはかわいいなー」
「かわいい? 私、かわいいの?」
「うん、とってもかわいいよ」
「そっかー。私、かわいいんだー」
「うん、そうだよ。よしよし、いい子いい子」
後日、僕たちは閻魔大王に今回の一件のことを伝えに行った。それを聞いた閻魔大王は「これからもやーちゃんのことよろしくね」とだけ言った。僕は「はい、分かりました」とだけ言って帰宅した。




