八咫烏
その日、僕は誘拐されなかった。
「良かったね! お兄ちゃん。誰にも誘拐されなくて!!」
「そうだなー」
「でも、油断は禁物!! ということで、家まで手つないで帰ろう」
「そうだな。よし、そうしよう」
「お兄ちゃんの手ってすごくあったかいね」
「一応生きてるからな」
「そっかー。生きてるからあったかいのかー。生きてるっていいねー」
「そうだなー」
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「カラスって普通二本足だよね?」
「まあ、そうだな」
「だよねー。でも、あの電線に止まってるカラスの足、三本だよ」
「え?」
夏樹(僕の実の妹)がそう言うとそれは僕たちの目の前に降り立った。
「雅人! 至急、地獄まで来い!! 繰り返す! 至急、地獄まで来い!!」
「どうして……どうしてお兄ちゃんと私の邪魔をするの? ねえ、教えてよ。ねえ」
「夏樹、少し落ち着け。まあ、とにかく鬼姫と童子と虎姉にこのことを報告しよう」
「そう、だね。そうしよう」
「鬼姫、いるか?」
「いるよー」
「童子、いるか?」
「います。今日一日、虎さんと一緒にあなたを見張っていましたから」
「そうか。えっと、このまま地獄に行くけどいいかな?」
「いいわよー」
「構いません」
「いいよー」
「よし、じゃあ、行こうか。夏樹も一緒に行くか?」
「行く! 絶対行く!」
「そうか。じゃあ、そうしよう。八咫烏、案内頼むぞ」
「分かった! 分かった!」




