煽るな!
折り紙製の赤い鶴が無風なのに宙を舞っている。
それが妹の声で僕を助けに来たと言うのだから、僕はかなり混乱していた。
しかし、雪女 葵に体のほとんどを凍らされているため、僕は体を動かすことができない。
「あと少し……あと少しで先輩を私のものにできたのに、どうしてあなたは邪魔するんですか!」
「お兄ちゃんを自分のものにする? 私以外、眼中にないって言われたでしょ?」
え? もしかして、あの時から、ずっと僕のそばにいたのか?
「それは私から逃げるための嘘です。ですよね? 先輩」
あのー、僕は今、君に体を凍らされてるので全く動けないんですよー。
「お兄ちゃん、ちょっと待っててね。もうすぐ助けが来るから」
助け? いったい誰が……。
「はぁ? ここがどこかも分からないのに、どうやって助けに……」
彼女が最後まで言い終わる前に、僕のとなりに何者かが現れた。
「まったく……鬼の力を使えなくても、もっとうまく立ち回れるようになってくださいよ。私はあなたの親じゃないんですよ?」
わ、童子! 助けに来てくれたのか!
「あなた、誰ですか? 先輩の何なんですか?」
「それは、ご想像にお任せします。それにしても、こんな拷問部屋みたいなところはいつの時代にもあるんですね」
お前、いったい何歳なんだよ……。
「あなたのような子どもに用はありません。今すぐ出ていってください。そうすれば、命だけは助けてあげます」
「子ども? それは私のことですか?」
ちょ、それは言っちゃいけないやつだよ!
「あなた以外に誰がいるんですか? こけしちゃん」
「見た目がこけしみたいに、ちんちくりんだと言いたいんですね。えー、分かっていますとも。私は一生、幼児体型ですよ。ですが、そんな私に勝てないあなたは私以下ということになりますね」
煽るな! あと、こんなところで戦おうとするな!
「私がいつ、あなたに負けたんですか? 教えてくださいよ」
「それは……今……いえ、もうすでに、あなたは私に敗北していますよ」
それは本当……なのか?
「何をバカなことを言って……」
彼女は最後まで言い終わる前に気を失った。
え? ちょ、いったい何が起こったんだ?
座敷童子は彼の頭に『溶』という文字を指で書いた。
すると、彼は自由に動けるようになった。
「ありがとう! 童子! 助けに来てくれて!」
僕が彼女に抱きつこうとすると、彼女は右に避けた。
「ちょ、なんで避けるんだよ!」
「あまりベタベタされるのは嫌いです。そういうのは家に帰ってからにしてください」
あー、まあ、そうだな。
「わ、分かったよ。それで? どうやってここから出るんだ?」
「それは……」
彼女が最後まで言い終わる前に例の雪女が目を覚ました。
「あら? もう起きたんですか。意外と文字に耐性があるんですね」
「耐性? そんなもの私にはありませんよ。私はただ、気を失う直前に自分の体に書かれた文字を凍らせて、文字の効果を半減させただけです」
えっと、二人はいったい何の話をしているんだ?
「そうですか。では、次は確実にやります。かかってきなさい、小娘」
「私を……小娘と……呼ぶなああああああああ!!」
彼女の体から白い妖気が溢れ出す。
座敷童子はニヤリと笑うと、金色の妖気を体から出し始めた。
どうやら、今からバトルが始まるようだ。