わーい! 許されたー! お兄ちゃん、大好きー!
朝、僕が目を覚ますと目の前に夏樹(僕の実の妹)の寝顔があった。うん、僕の妹は今日もかわいいな。いつ見てもかわいいな。どこを見てもかわいいな。いつまで見ていられるな。
「お兄……ちゃん……」
「んー? なんだー?」
「私と……結婚してー……」
「うーん、法律婚はできないけど、事実婚はできるぞー」
「へえ、そうなんだー……」
彼女は僕を抱き寄せると僕の背骨が軋むくらいきつく抱きしめた。ああ、まずい……このままだと、確実に死んでしまう。でも、そうなると死因が実の妹による抱擁になるなー。それはかなりいい死に方かもしれないなー。
「……あ……おはよう、お兄ちゃん」
「お、おはよう、夏樹。えっと、ちょっと力抜いてもらえると嬉しいな」
「あー、ごめん。無意識のうちにお兄ちゃん殺すところだった。まあ、その時は私も一緒に死ぬから安心してね」
「冗談でもそういうこと言うな。悲しくなるから」
「ごめんなさい。でも、お兄ちゃんがいなくなったら私きっと暴走しちゃうから」
「そうなのか? お前なら一人でも生きていけるだろう」
「無理だよ、そんなの。お兄ちゃんは私の全てだもん」
「全てかー。ちょっと大袈裟じゃないか?」
「全然大袈裟じゃないよ。だから、私より先に死なないでね」
「うーん、男は寿命短いからなー」
「大丈夫。いざとなったら私がお兄ちゃんの介護するから」
「介護ねー。まあ、その時が来たらよろしく頼む」
「うん、分かった」
普通の兄妹では絶対にしないような会話を朝からしてしまったが、別におかしいとは思っていない。僕たちにとってはそれが普通だからだ。
「ねえ、お兄ちゃん。私の着替え、見たい?」
「ほぼ毎日見せられてるから別に見たいとは思わないなー」
「そう? 私は見たいけどなー。お兄ちゃんが着替えてるところ」
「そうなのか? 別に面白くないぞ?」
「そんなことないよ。着替え中のお兄ちゃんの写真があれば一ヶ月くらい生きられるよ」
「僕を見てもお腹はいっぱいにならないぞ」
「なるよ。心が」
「なるほど。そういうことか」
「うん、そういうことだよ」
「そうか。えっと、そろそろ着替えたいんだけど」
「ここで着替えればいいじゃん」
「いや、でもお前が見てるとなんか着替えづらいんだよ」
「大丈夫だよ。私今から空気になるから」
「空気? 空気かー。うーん、でも、やっぱり誰かが見てると着替えにくいなー」
「そっか。じゃあ、後ろ向いてるから五分で着替えて」
「五分かー。分かった。じゃあ、着替え終わるまで後ろ向いててくれ」
「はーい」
五分後……。
「よし、もういいぞー……って、あれ? 夏樹がいない。おーい、夏樹ー。どこにいるんだー?」
「ここだよー」
「ん? なんで僕の目の前にいるんだ? 後ろ向いてるはずだろ?」
「さっき言ったでしょ? 私今から空気になるって」
「え? あー、そういえば、言ってたな。ん? ということは」
「お兄ちゃんの生着替え映像、私の脳内にバッチリ永久保存したよー」
「ちょ! 神になれるようになったからってその力を悪用しちゃダメだろ!!」
「悪用してないよ。活用しただけだよ」
「いや、どっちにしろ盗撮してるじゃないかー! 早くデータ消せー!!」
「無理でーす! お兄ちゃんに関することは絶対忘れないようになってるから」
「くそー! 都合のいい頭だなー!」
「うん、そうだよー! でも、私この頭すっごく好きー」
「くそー! かわいいなー! もうー! よし、かわいいから許す!!」
「わーい! 許されたー! お兄ちゃん、大好きー!」
「ありがとう! でも、そのデータ、ネットにばら撒かないでくれよ」
「……うん、分かった」
「なんだ! 今の間は!! もしかしてもう」
「違うよ、私の髪に保存したんだよ。こうすれば脳みそぐちゃぐちゃにされてもデータ破損しないから」
「そ、そうか。なら、いいんだけど」




