固有神域、上書き、あーちゃん
あれ? さっき気絶させたはずなのにもう意識戻ってる。タフな女だなー。
「ありがとう。ダメージを与えてくれて」
「え?」
「あんたに地獄を見せてあげる」
「じ、地獄?」
「うん、そうだよ。まあ、私と雅人にとっては天国だけどね」
あれ? なんでだろう。全然恐怖を感じない。強くなりすぎちゃったからかな?
「固有神域『天照陽光領』!!」
「うわあ、ここ太陽しかないねー。しかもこんなにたくさん」
「え? ちょ、ちょっと! あんた、なんで平気なのよ! この空間にいても平気なのは私と私の力の一部で作った『太陽の実』を食べた者だけなんだよ!?」
「さぁ、どうしてだろうね。それより別の空間出してもいい? ここ太陽しかないから見てるだけで体温上がっちゃうよー」
こいつ、明らかに天界最強の私より格上だ。くそー! あと少しで最高の器が手に入るのに!!
「あっ、そういえば、あんたの目的って何なの? まあ、十中八九、お兄ちゃんの体目当てなんだろうけど」
「そ、そうだよ! だって、最強の神である私にふさわしい器が私のそばにないのはおかしいもん!!」
「器? 私の……私だけのお兄ちゃんがあんたの器? ふざけるな。今すぐお兄ちゃんに謝れ」
「うるさい! 黙れ! 来い! 三種の神器!!」
「させるか! 開け! 私の固有神域!!」
「バーカ! 固有神域は神じゃないと作り出せな……」
「固有神域『針女の住処』!!」
「えええええええええ!! ちょ! ちょっと待って! なんで妖怪のあんたが固有神域を作れるのよ!!」
「そんなことどうでもいい。それより早く逃げないと私の銀髪と同じ強度のハリガネムシがあんたの体をハチの巣にするわよ?」
「ふん! こんな虫、私の力の前では無力……あれ? 力が出ない。なんで? どうして?」
「この空間にいても平気なのは私とお兄ちゃんだけ。それ以外の者はこの地獄から抗う術を全て使えなくなる」
「そ、そんな! じゃあ、私は今から……」
「私のかわいいハリガネムシたちによって精神と肉体を壊される。永久にね」
「そ、そんなの嫌だ! 早くここから出して!!」
「うーん、どうしようかなー。ねえ、お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「この女、壊していい?」
「……壊すなんてもったいない。友達にしよう」
「お兄ちゃんは甘いなー。まあ、別にいいけど」
やつが指をパチンと鳴らすと固有神域は閉じた。ああ、怖かったー。でも、悔しい! 三種の神器さえあれば、絶対勝ってた!!
「お兄ちゃん、こいつまだ戦意あるよ? やっぱり壊した方がいいんじゃない?」
「やめておけ。壊しちゃったら絶対面倒なことになるから」
「うーん、まあ、そうだよねー。ということで、これから仲良くしてねー」
「こ、この手は何?」
「え? 何って握手だよ。ほら、早く手出して」
「どうして私がそんなことを」
「早くしろ。今すぐぶっ壊されたのか?」
「わ、私、天照大御神っていうんだよー。これからよろしくねー」
「私、夏樹っていうのー。これから仲良くしてねー」
「僕は雅人だ。よろしくな」
「う、うん! よろしくー!」
ま、まあ、『太陽の実』が雅人の体内にある限り、雅人はこの世界から出られないけどね!
「あっ、そうだ。ねえ、お兄ちゃん。ちょっとお兄ちゃんのお腹貫いていい?」
は? 今、こいつなんて言った?
「んー? なんでだー?」
いや、その反応はおかしいよ!
「いや、お兄ちゃんのお腹の中に変なもの入ってるからそれを潰しておこうと思って」
ええ……。
「えーっと、お腹貫いたら内臓出ちゃうから、変なものだけ取り出してくれないか?」
いや、そんなことできるわけ……。
「うーん、針女の髪は影を奪取できるみたいだから多分可能だよ」
多分って……。
「そうか。なら、やってくれ」
えっ!? ちょ! 成功するか分からないのにやらせるの!?
「りょうかーい! じゃあ、始めるよー! えーいっ!」
や、やめてー!!
「どうだ? うまくいったか?」
あー、グロい。何なのこの兄妹。
「うん! 成功したよ! ほら、見て!!」
なんで見せるの? 見たくないよー。
「あー、やっぱり『太陽の実』かー。よし、これで帰れるなー」
いや、ちょっと待って。外傷ないの!? すごいね!!
「そうだねー。あっ、その前に……チュ♡」
は?
「おいおい、なんだよ、いきなり」
「ほら、さっき私の目の前であーちゃんと【キス】してたでしょ? だから、上書きしたんだよ」
あーちゃん? あー、私のことか。
「そうか。そういうことだったのか。よし、じゃあ、帰るか」
「うん! じゃあ、またね! あーちゃん!!」
「う、うん、またねー」
あいつ、またねって言ってた……。正直、もう二度と会いたくないよー。というか、あいつ絶対アレと何か関係あるよー。混沌にして原初の神『カオス』が作った『はじまりシリーズ』の一体『はじまりの針女』。千年前、私はアレを太陽の中に放り込んで殺した。それなのにどうしてあいつからアレと同じ気配が……。ん? 待てよ? あいつは生前、多数の針女を生み出してたよね。そ、そうか! この世界にいる針女は全てアレになる可能性があるんだ!!
「私の欠片は強かったか?」
……!?
「い、いったい、いつからこの場にいたの?」
「ずっとだ。お前が私を太陽の中に放り込んだあの日からずっと私はお前のそばにいた」
「も、目的は何?」
「何もない。私の役目は終わった。あとは見守るだけだ」
「見守る? 母親にでもなったつもり?」
「母親か……。まあ、そんな感じだな。では、さらばだ」
「ま、待って! あいつの強さは計り知れない! だから、対抗策を教えて!!」
「あの子のそばに雅人がいる限り、あの子は私にはなれない。じゃあね、あーちゃん」
「親子揃ってその名で呼ぶなー!!」
はぁはぁ……あー、また引きこもろうかな。




