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太陽の実

 太陽のフレアのような模様がえがかれている巫女装束(しょうぞく)を身にまとっている黒髪セミショートの美幼女、天照大御神あまてらすおおみかみは僕の顔を見ながらニコニコ笑っている。いったい何がおかしいのだろう。


「それ、落としちゃダメだよ☆」


 彼女が僕に向かって投げた小さな太陽のような球体。これを落とすと太陽が爆発してしまうらしい。本当かどうか分からないが、まあとりあえずこのまま持っておこう。


「あー、うん、分かった。ところで君はどうして僕を牢屋に閉じ込めたんだ?」


「虫は虫籠に入れないと逃げちゃうでしょ? だから、ここに入れたんだよ」


 なるほど。分かりやすい例えだな。


「いや、でも、僕は一応人間……」


「牢屋と虫籠って何が違うの? どっちも狭いところに生き物を閉じ込めて逃げられなくしてるよね?」


「うーん、そうだなー。まず強度が違うな。あと大きさも違う。あー、それから虫籠の方が掃除しやすい」


 彼女はそれを聞くとクスクス笑い始めた。


「面白い答えだねー。本当はもう少しここに閉じ込めておくつもりだったけど、特別にここから出してあげるよ」


「な、何!? それは本当か!?」


「うん! いいよ! ただし、その『太陽の実』を食べてからにしてね☆」


「『太陽の実』? それって僕が今持ってるこれのことか?」


「うん! そうだよ! ほら、早く食べて!!」


「お、おう、分かった。はむっ! はむはむはむ……うーん、なんか変な味だなー。でも、食べられないほどじゃないな」


 よし、これでもう雅人まさとはこっち側の人間だね。


「ねえ、雅人まさと。今、体ポカポカしてない?」


「え? あー、そういえば、そうだな。なんでだろう」


「安心して! 別に燃えてるわけじゃないから! さぁ! 早くここから出よう!!」


「え? 牢屋の鍵持ってないのか?」


「牢屋の鍵? そんなものこの世界にはないよ」


 この世界?


「え? じゃあ、どうやって出るんだ?」


「うーんとねー、異性とキスしないと出られないんだよー」


「え? じゃあ、僕は今から君と……」


「うん、そうだよー。今から私とキスしちゃうんだよー」


「いや、でも、君はたしか配偶者が」


「いるけど、あれは誓約上のだよ。それにあんなのより雅人まさとの方がよっぽど魅力的だよ」


「え? そうなのか? いまいちピンとこないなー」


雅人まさとらしいねー。さぁ、早く私とキスしよう!」


「うーん、なんだろう。神様とキスしたらバチが当たりそうなんだよなー」


「そうかなー? むしろ御利益ごりやくあると思うよー。だから、ね? 早くキスしよう」


「いや、でも鉄格子が邪魔かなー」


「なら、燃やしちゃおう! 雅人まさとー、ちょっとそこから離れてー」


「あ、ああ、分かった」


「それじゃあ、やっちゃうよー! えいっ!!」


 あー、えーっと、燃えたというか溶けたな。


「あー、ちょっとやりすぎちゃったかなー。うーん、まあ、いいや」


「あー、えーっと、ついでに今溶かした鉄格子より頑丈な結界を破壊してくれないかなー、なんて」


「それは無理だよ。異性とキスする時と異性とキスした後にしか解除されないように設定されてるから」


 地獄の結界、これ参考にすればいいんじゃないかなー。そうすれば、現世にちらほら出てくる地獄の住人たちの出現率減少すると思うのだが。


「そ、そうか。じゃあ、その……しようか」


「うん、いいよ♡」


 夏樹なつき(僕の実の妹)、ごめん。僕、今から神様とキスすることになりそうだ。帰ったらちゃんと事情を説明するから許してくれ。

 僕が彼女とキスしようとすると、彼女の背後の空間にヒビが入った。その後、窓ガラスが割れるように空間が割れ、その空間というか穴から見覚えのある人物が姿を現した。


「私のお兄ちゃんに……何しようとしてるのよー!!」


 夏樹なつきこぶしは弾力性のある結界に無力化されてしまったが、夏樹の戦意はまだ残っている。


「あーあ、もう居場所バレちゃったのかー。予想より結構早かったなー」


「な、夏樹なつき!? どうしてここに!?」


「詳細は後で話すから一刻も早くここから出よう!!」


「あ、ああ、そうだな。でも、この牢屋から出るには」


「こうしないといけないんだよねー。チュ♡」


 え……? 今、この女、私の目の前でお兄ちゃんとキスしなかった?


「……っ!? ちょ! いきなり何を!!」


「よおし、これで契約完了っと。雅人まさとー、こっちにおいでー」


「はい」


「ちょ、ちょっとお兄ちゃん! 早く元の世界に戻ろうよ! みんな心配してるよ!!」


「……」


「お兄ちゃん! 私の声聞こえないの? ねえ、お兄ちゃんってば!!」


「うるさいなー。もう雅人まさとはこの住人なんだからそっちには戻れないよ」


「そ、そんな……嘘でしょ?」


「嘘だと思うならその穴に雅人まさとを放り込んでみなよ。こっちに押し戻されるから」


「お、お兄ちゃん、この穴に入れば元の世界に戻れるよ。ほら、早く戻ろう」


 あれ? お兄ちゃんが反応してくれない。どうしてだろう。


雅人まさと、試しにあの穴に入ってみて」


「はい」


 な、なんで? なんでお兄ちゃんはその女の言うことしか聞かないの?


「うーん、やっぱりこっちに押し戻されちゃうねー。ということで、もう君帰っていいよ」


「ねえ、お兄ちゃん。返事してよ。どうしちゃったの? ねえ、お兄ちゃん! お兄ちゃんってば!!」


「うるさいなー。早く帰ってよ」


いやだ! お兄ちゃんと一緒じゃないと帰らない!!」


「うーん、それ、無理。じゃあね、未覚醒の妖怪さん」


 いきなり足元に穴ができて、私はそこから落ち始める。あー、お兄ちゃんがどんどん遠くに行ってしまう。お兄ちゃん、行かないで。私を一人にしないで……。あれ? でも、なんかお兄ちゃん泣いてる。どうして泣いてるの? もしかしてまだ自我が残ってるの? だとしたら、まだチャンスはあるね。よおし!!


「……あっ、しまった。雅人まさとの自我まだ少し残ってる。泣かないで、雅人まさと。これからはずーっと私と一緒なんだから」


 ……!! な、何かが近づいてくる! こ、この気配はまさか!


「おい、ちびっ子。第二ラウンド、始めるわよ」


 な、なんで……なんでさっきまで黒かった髪が銀色に変わってるの!? しかもこの気配、昔倒したはずのアレと似てるよ!!


「か、神様に勝てると思うなー!!」


「遅い」


「なっ! い、いつの間に背後に……」


 体がものすごく軽い。こんなの初めてだよ。というか、この女、神様なんだ。うーん、まあ、いいや。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「……あ、ああ、なんとかな」


「そう。良かった」

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