蛇神 大蛇
はぁ……なんか尾行されてるなー。
「雅人、みんなと先に帰ってて。私、ちょっとコンビニに行ってビール買ってくるから」
「え? あー、分かった」
これでよし……。さてと、私に何の用かなー。
「久しぶりだな、虎」
「なあんだ、『蛇神 大蛇』か。私に何か用?」
というか、相変わらず蛇顔なのね……。
「久しぶりに人間共を狩らないか?」
「はぁ……あのねー、私はもう悪いことしないって決めたの! だから、さっさと消えて!!」
「そうか。だが、いいのか? 俺が雇ったスナイパーがお前の大切な人を狙っているぞ?」
「……! 雅人は関係ないでしょ!」
「ある。あいつは俺からお前を奪った。あいつは俺と同じ半妖のくせに幸せそうにしている。俺はそれが許せない。絶対に殺す!」
「あー、えーっと、私あんたのものになった覚えないんだけど?」
「これからそうなるんだよ。さぁ、早く俺のものになれ! さもないと」
「あいつを殺すぞ、か?」
「ま、雅人! あんた、どうしてここにいるの!?」
「どうしてって、虎姉、今無一文だろ? コンビニでビールなんか買えるわけないじゃないか。あと、なんとなく嫌な気配を感じたから来たんだよ。それで? あの蛇顔男は何なんだ?」
「あー、えーっと、あいつは」
「許さない……! 俺の虎を奪ったお前だけは許さない!! 呪毒生成開始!!」
「あー、なんか怒ってるみたいだね。虎姉、使用者の体以外切断できる糸出せる?」
「え? あー、うん、出せるよ。一メートルくらいでいい?」
「うん、いいよ」
「りょうかーい。はい、どうぞ!」
「ありがとう。じゃあ、そのまま少し待ってて」
「え? あー、うん、分かった」
「絶対に殺してやる! この俺の呪毒で!!」
呪毒。解毒方法がない毒のことか。たしか五秒以内に患部とその周囲にある肉や骨を体から切り離さないと心停止するやつだな。
「死ね! 死んでしまえ!!」
蛇ってみんな執念深いのかな……。うーん、まあ、いいや。とりあえずさっさと倒そう。
「早く来いよ。僕を殺したいんだろ?」
「殺す!!」
なんか闘牛士になったような気分だな……。タイミングさえ合えば、容易に回避できる。
僕はやつの推進力を利用してやつの首を糸で切断した。ついでに他の部位とやつの魂も切り落とした。まあ、まだ切られたことに気づいていないだろうが。
「虎姉、早く帰ろう」
「え? あー、うん、そうだね」
「おい! ちょっと待て! 逃げるつもりか!!」
「一つ忠告しておく。そこから動くと死ぬぞ」
「ふん! そんな嘘、俺には通用しな……」
「はぁ……バカだなー。僕の言うことを聞いていれば数秒で元に戻れたのに」
「あんた、強くなったわねー。なんというか動きに無駄がないわね!」
「えー、そうかなー?」
俺が死んでも……呪毒は残る……。お前の息の根を止めるまで。
「イッソ、イッソ、イッソ、イッソ、イーソ、イソー、今夜のおかずは何じゃろなー。おっ、珍しい毒だー。家に持って帰ってカレーの隠し味にしよう!!」
な、なんだ? このイソギンチャク娘は……。おい、やめろ。やめるんだ!!
「あー、集めるの面倒くさいなー。魔法の瓶の中に詰めちゃおうっと! 毒よ、集まれー!!」
やめろー!!
「よし、回収完了! さてと、それじゃあ、帰ろうかなー」
ああ……なんということだ。俺の呪毒があんな小娘の体の一部になってしまうのか。くそ……どうして、こうなったんだ。




