触らぬブラコンに祟りなし
僕と絡新婦の『八足 虎』が正門まで行くと彼女は夏樹(僕の実の妹)の黒い長髪に拘束された。
「……なあ、どうしてお前がここにいるんだ?」
「あははははは! 夏樹ちゃん、顔怖いよー。ほら、笑って! 笑って!」
「私の質問に答えろ」
うわあ、ガチギレしてるー。
「うーんとねー、なんか暇だったのとー、久しぶりに雅人に会いたくなっちゃったからー、来ちゃった⭐︎」
「そうか。なら、今すぐ地獄に帰れ」
「あー、えーっと、私これから雅人の手料理を食べに行くところなんだけど」
「うるさい! 今すぐ帰れ!!」
「夏樹、虎姉は僕の手料理を食べたいだけなんだよ。だから、早く解放してやれ」
「ダメだよ、お兄ちゃん。この女、何するか分からないんだから」
「それは僕と出会う前の話だ。今はその頃とは違うから大丈夫だよ」
「いや、でもこの女がここにいるってことは脱獄してきたってことでしょ?」
「それは……まあ、なんというか地獄に落ちても本質は変わらないから」
「そうだよー。私は死んでもずーっとこのままだよー」
「なら、今すぐその首を切り落としてやる!!」
「落ち着け、夏樹。そんなことしたらお前が地獄に落とされるぞ。ちなみに地獄の刑期は一番短くても一兆年くらいあるぞ」
「そっか。じゃあ、やめる」
「よしよし、ちゃんと我慢できて偉いぞ」
僕が夏樹の頭を撫でると夏樹は嬉しそうに笑った。
「あー、痛かったー。なんか夏樹ちゃんの髪また進化してない?」
「虎姉、首直角に曲がってるぞ? 大丈夫か?」
「え? あー、ホントだ。もうー、夏樹ちゃんったら私を解放する時に首折ったでしょ?」
「そうなのか? 夏樹」
「私、しーらない」
「あっ、そう。まあ、別にいいけど。えっと、指から出した糸でパパッと縫合してっと。よし、できた! それじゃあ、帰ろうか!! って、なんか見慣れない子たちがいるねー。ねえ、雅人。この子たちだあれ?」
「え? あー、えーっと、こっちは許嫁の凛でとなりにいるのが娘の姫凛。今僕の頭の上にいるのが『はじまりの座敷童子』の娘、福与。夏樹のとなりにいるのが地獄出身の巨大な白い蛾、鈴蘭。あー、あと今足を震わせてるのが訳あってうちに居候してる松本 千夏さんだ」
「私は雅人さんの右腕、座敷童子の童子です。ちなみに私のとなりにいるのは私と雅人さんの愛の結晶である童子セカンドです」
「我は雅人の主、上級吸血鬼のアリシア・ブラッドドレインだ」
待て。なんかさっきまでここにいなかったやつらがいるぞ。
「ほえー、ちょっと見ない間にずいぶん増えたねー。というか、ほとんど人じゃないねー。ん? ちょっと待って。なんか娘が三人いるみたいだけど、この子たちのお父さんは誰なの?」
「僕だよ」
「……は? ちょ! あんた、まだ高二でしょ? 高二で娘が三人もいるのってちょっとおかしくない? というか、したの? しちゃったの?」
「してないよ。まあ、話すと長くなるからその話は家に帰ってからするよ」
「あー、うん、分かった。というか、雅人に性欲あるの?」
「ないわけではない、とだけ言っておくよ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、今夜私とする?」
「分かってると思うけど、お兄ちゃんに変なことしようとしたら私の髪であんたの体ぐちゃぐちゃにするから」
おー、怖い怖い。触らぬブラコンに祟りなし。
「うーん、私の血で家を汚したくないから今夜はやめておこうかなー。あっ、別に私の血でシーツを汚すっていう意味じゃないからね⭐︎」
「やっぱりお前は私の敵だ」
「まあまあ、そう言わずに。仲良くしようよ、夏樹ちゃん⭐︎」
うっざ……。なんでこんなのがいとこなんだろう。




