アリシアー、風呂沸いたぞー
吸血鬼は皆、コツさえ掴めば覚醒できる。しかし、覚醒している吸血鬼は今のところいない。まあ、生まれた時から覚醒しているやつが一人いるが……。
「おい、雅人」
「なんだ? アリシア」
「一緒に風呂に入らないか?」
「え?」
「あっ! 私も一緒に入りたいです!」
「鈴蘭もか。うーん、まあ、蛾と蝙蝠に体を洗ってもらうって思えばいけるか」
「我は蝙蝠ではない! 上級吸血鬼のアリシア・ブラッドドレインだ!!」
「似たようなものだろ」
「全然ちがーう!!」
まったく、どうして我が眷属は我を崇拝しないんだ!
*
「アリシアー、風呂沸いたぞー」
「分かった。今行く」
「わーい! お風呂だー!」
鈴蘭(白い蛾。今は人型)のやつ、はしゃいでいるな。まるで昔の我のようだ。
「あっ、そうだ。アリシア」
「ん? なん、だっ!!」
ああ、情けない。眷属の前で転んでしまう。ああ、穴があったら入りたい。
「よっと……。まったく、床少し濡れてるから滑って転ばないようにしろよって言おうとする前に転ぶなよ」
「す、すまん。助かった」
「どういたしまして。もう転ぶなよ」
「お、おう」
な、なんということだ。我は今、雅人の腕の中にいる! しかも雅人が我の顔をじっと見つめている!! これが不幸中の幸いというやつか!!
「おい、大丈夫か? 顔少し赤いぞ」
「き、気のせいだ! それより早く我の体を洗え!」
「はいはい」
あ、危なかった。もう少しで吐血するところだった。




