安心しろ、ロードローラーに轢かれただけだ
帰宅時、僕は鈴蘭(白い蛾)と上級吸血鬼のアリシア・ブラッドドレイン(金髪ロングの美幼女)を紹介した。
「……というわけなんだ」
「なるほど。だいたいの事情は分かりました。鈴蘭さんは地獄の門まで案内するとして、アリシアさんは実家に帰ってもらいましょう」
「ほう、我を雅人から引き離すつもりか。まあ、我は何があろうと雅人のそばから離れるつもりはないがな!」
「そうですか。では、今すぐ出ていってください」
座敷童子の童子がそう言うと彼女はリビングからいなくなった。
「おい、童子。今のはさすがに酷くないか?」
「酷い? 私は害虫を追い出しただけですよ?」
「鈴蘭の前でそういうこと言うなよ。鈴蘭、今のはお前のことじゃないからな」
「え? あっ、はい」
「鈴蘭さん、地獄の門まで案内しますので私と一緒に来てください」
「い、嫌です!」
「はい?」
「私、地獄に帰りたくないです!」
「理由は?」
「そ、それは……」
ん? なんで僕の顔をチラ見してるんだ?
「はぁ……分かりました。あなたの好きにしてください」
「ありがとうございます! これからよろしくお願いします!」
住人また増えるのか。まあ、別にいいけど。
「ああ、よろしく。おい、童子。そろそろ家に入れてやれよ。あいつ、昔の僕のこと知ってるみたいだからさ」
「……分かりました。そうします」
彼女が指をパチンと鳴らすとリビングにアリシアが現れた。
「ちょ、お前血だらけじゃないか! 大丈夫か!?」
「安心しろ、ロードローラーに轢かれただけだ」
「ろ、ロードローラー!?」
「吸血鬼の再生能力は異常だ。故に吸血鬼殺しの武器以外ではダメージを与えることはできぬ」
「そうか。なら、いいんだけど」
「それより雅人、少し血を吸わせてくれないか? 久々に再生したせいで腹が減ってしまったんだ」
「え? あー、まあ、別にいいけど」
「そうか。では、遠慮なく」
「ダメえええええええええええええええええええええ!!」
夏樹(僕の実の妹)が大声でそう叫ぶとアリシアは少しガッカリしたような表情を浮かべた。
「なんだ? 小娘」
「私のお兄ちゃんの血は特別なの! だから、吸わない方がいいよ!」
「特別だと?」
「うん、そうだよ。一度吸ったらもう他の血じゃ満足できなくなるよ!」
「ほう、そうか。それでどうしてお前はそのことを知っているんだ?」
「え? あー、えーっと、それは……お、お母さんが言ってたからだよ」
「ほう、あの悪魔が言っていたのか」
「あ、悪魔?」
「ん? お前、知らないのか? お前の母親は元吸血鬼ハンターだぞ?」
「え! そうなの!?」
「ああ、そうだ。まあ、引退の原因になった吸血鬼は吸血鬼というより絶望そのものだがな」
「絶望?」
「まあ、アレに戦意がなかったおかげで助かったんだがな」
「へえ、そうなんだ」
「しゃべったら喉が渇いたな。雅人、血をよこせ」
「だーかーらー! お兄ちゃんの血を安易に吸っちゃダメなんだってばー!!」




