ガラス製の壁と赤い鶴
朝、起きて歯を磨いて、あっという間……ん? 今の何の歌だ? まあ、いいか。
よし、じゃあ、行くか。
僕が玄関の扉を開けた時、目の前にガラス製の壁があった。
僕は試しにタックルしてみたが、びくともしなかった。
「……ガラスでできてるな。というか、包囲されてるような気がするな」
僕が玄関で突っ立っていると、座敷童子が僕のところにやってきた。
「どうかしましたか?」
「あー、いや、なんか家の周囲をガラス製の壁が覆ってるから、出られないんだよ」
座敷童子は何かを思い出したかのように「あっ」と言った。
「おい、まさか、お前……」
「すみません、これは昨日、私が寝る前に作ったものです」
やっぱりか……。
「なんでこんなもの作ったんだよ」
「不審者が入れないようにするためです」
何?
「あのー、僕も出られないんですけどー」
「そんなことはありません。いいですか? よーく見ていてくださいよー」
彼女が壁に触れると、彼女の手は壁をすり抜けた。
「ほら、この通り」
「なら、もう一度やってみようかな」
僕が壁に触れようとすると、彼女と同じ結果になった。
「あっ、本当だ。よし、じゃあ、いってきます」
「はい、いってらっしゃい」
僕がゆっくり前進すると、僕の体はガラス製の壁をすり抜けた。
「今日はいい天気だなー」
「お兄ちゃーん! 忘れ物だよー!」
夏樹の声が聞こえる。
二階の方からだ。
僕が二階のベランダの方に目をやると、妹が手を振っていた。
「忘れ物ー?」
「うん、そうだよー! これこれ!」
妹は折り紙でできている赤い鶴を持っていた。
「それ、夏樹が作ったのかー?」
「うん! そうだよー! 今から飛ばすから、ちゃんとキャッチしてねー!」
昨日作ったのかな? それとも今さっきかな?
まあ、いいや。
「おうー! 分かったー!」
「じゃあ、行くよー! それー!」
妹が折り紙でできている赤い鶴を飛ばすと、それは僕の顔めがけて飛んできた。
「よっと……。ちゃんと受け止めたぞー!」
「ナイスキャッチー! それ、失くさないようにしてねー!」
お守り代わりにしろってことかな?
「おう! 分かったー! それじゃあ、行ってきまーす!」
「いってらっしゃーい!」
妹は僕が見えなくなるまで手を振っていた。




