思い出せない
やっと時が動き始めた。なんというか、また増えたな。女の子が。
「あ、あのー」
「なんだ?」
「授業が終わるまでどこかに隠れていた方がいいですか?」
「え? あー、そうだな。掃除用具入れの中にでも入っていれば大丈夫なんじゃないかな」
「あそこは埃っぽいのでちょっと苦手です」
「そっか。じゃあ、体育館の天井とかは?」
「あー、そこなら大丈夫です。では、私はこれで。あっ、バレーボールが引っかかってたら落としておきますけど、いいですか?」
「それは別にいいけど、下に誰もいないか見てからしてくれよ」
「はい! 分かりました!!」
彼女はそう言うと体育館へ向かった。あっ、そういえばあの子の名前知らないな。シロツバメエダシャクっていう蛾なのは知ってるけど。
「お父さん」
「なんだ? 福与」
「お腹空いた」
「あー、えーっと、教室に着くまで我慢できるか?」
「無理。さっき力使っちゃったから今すぐ補給しないと死んじゃう」
「そうか。なら、仕方ないな。ほら、好きなだけ吸え」
「うん、そうする」
彼女は僕の血をおいしそうに飲んでいる。そういえば、小さい頃誰かに血を吸われたことがあったような気がするなー。うーん、ダメだ。思い出せない。




