巨大な白い蛾
そいつは体育館の天井にいた。蛾は蛾でも巨大な白い蛾だった。
「なあ、福与。あいつが時を止めた虫か?」
「うん、そうだよ」
「えっと、僕はこれから何をすればいいんだ?」
「何もしなくていいよ」
「え?」
「今もそうだけど泣き止むまでこのままだから」
「え? アレ泣いてるのか?」
「アレが泣いてるから時が止まってるんだよ」
「そうなのか。えっと、いつまでこのままなんだ?」
「最短だと一日。最長だと……」
「最長だと?」
「一億年かかるよ」
「い、一億年!?」
「うん。でも、安心して。アレが泣き止むまで成長しなくなるから」
「な、なんだって!? えっと、それってあいつの固有能力みたいなものなのか?」
「地獄にいる虫はだいたい似たような能力持ってるから固有能力じゃないよ」
「そうなのか。あれ? あいつ、なんかこっちに来たぞ」
「ホントだ。お父さんに興味があるのかもしれないね」
「え? なんで僕なんだ?」
「お父さんは女の子に好かれやすいからだよ」
「ん? あれメスなのか?」
「うん、そうだよ。たしか名前は」
「どうも、地獄出身のシロツバメエダシャクです」
「そう、それ。あれ? あなたもしかして」
「はい、一億年泣き続けていた個体です」
ええ……なんでこんなところにいるんだよ。




