はじまりの座敷童子
しばらくすると夏樹(僕の実の妹)は寝息を立て始めた。よし、部屋まで運ぶとしよう。
僕が彼女を彼女の部屋のベッドまで運び終わると誰かの声が聞こえてきた。
「おいで……おいで……」
「誰だ? 僕を呼んでいるのか?」
「おいで……おいで……」
「えっと、僕はどこに行けばいいんだ?」
「こっち……こっち……」
こっちってどっちだ? 声がする方に行けばいいのか?
「部屋から出ればいいのか?」
「うん……」
そっか。でも、なんか怪しいな。僕を誘拐しようとしてるんじゃないか?
「なあ、お前は僕をどうするつもりなんだ?」
「何もしない。ちょっとお話ししたいだけ」
本当かなー?
「そうか。じゃあ、僕を誘拐する気はないんだな?」
「……今のところはない」
ええ……。
「えっと、それって今日じゃないとダメなのか?」
「ダメ」
「そうか……分かった。今からそっちに行くよ」
「ありがとう。雅人」
あれ? 僕、名前言ったっけ? うーん、まあ、いいや。僕が夏樹の部屋から出ると白い空間が現れた。
「えっと、ここは……」
「やっと会えたね」
その声と共に僕の目の前に現れたのは白い光に包まれた美幼女だった。
「えーっと、君は……」
「こう見えて『はじまりの座敷童子』だよ」
「は、はじまりの座敷童子?」
「うん、そうだよ。それと少し前に雅人に話しかけたよ」
「えっと、それっていつの話だ?」
「童子ちゃんと一緒に座敷家に来た時だよ」
「……あー! あの時か!! それじゃあ、やっぱりあれは幻聴じゃなかったんだな!!」
「うん、そうだよ」
「そうかー。そうだったのかー。それで? 話ってなんだ?」
「あー、その、えーっと……ま、雅人の子どもが欲しいの」
「……へ? ご、ごめん。ちゃんと聞いてなかったからもう一度言ってくれないか?」
「何度も言わせないで。恥ずかしいから」
いや、そんなもじもじするくらいならもう少し違う言い方をすればいいじゃないか。
「分かった。えっと、なんで子どもが欲しいんだ? 童子がいるってことはちゃんとしたんだろ? その、子作り……」
「してない」
「え?」
「私は全ての座敷童子に力を与えることしかできないから、そういうのはしてない。だから、まだ生娘」
「えーっと、それってつまり……」
「私はただの座敷童子製造機ってことだよ」
「そうなのか……。というか、そもそも座敷童子って何なんだ?」
「親より先に死んだ子はどうなると思う?」
「え? えーっと、たしか賽の河原で石を積まないといけないんだっけ?」
「少し違う。その前に適正検査を受けさせられる」
「あー、そういうことか。えっと、つまり今この世にいる座敷童子は全員」
「一度死んでる」
「そうか……。そうだったのか。えっと、そんな座敷童子製造機の『はじまりの座敷童子』が今さら子どもが欲しくなったということだな?」
「うん」
「なんで今さら……」
「ずっと見てたからだよ」
「え?」
「ほら、いつも雅人のそばにいるでしょ? 童子ちゃん」
「あー、なるほど。童子の……いや、この世にいる座敷童子たちの記憶は全て『はじまりの座敷童子』のものでもあるってことか」
「うん」
「えっと、そろそろ帰っていいかな?」
「ダメ。というか無理。私と雅人の子どもが生まれるまで雅人はここから出られない」
「な、なんだって!? くそ! やっぱり来るんじゃなかった!」
「ふふふふ……さぁ、旦那様。私といいことしましょう」
「何をしているのですか? 箱入り娘」
「え? な、なんで童子ちゃんがここにいるの? ちゃんと鍵閉めてたのに!」
「そんなもので私をどうにかできると思っているのですか?」
「うう……こ、こうなったら」
「少しでも動いたらこの空間は崩壊します。嘘だと思うなら動いてみてください」
「うう……どうして私の邪魔するの?」
「私の好きな人が本気で嫌がっていることをあなたがしようとしているからです」
「え? そうなの?」
「あー、うん、まあ」
「そっか。ごめんなさい。でも、私そういうことをする気はないよ。ただちょっと雅人の血が欲しいだけだよ」
「え? そうなのか?」
「うん」
「でも、なんか襲う気満々だったような」
「あれはその……本に書いてあったから」
「あー、なるほど。そういうことだったのか。なら、仕方ないな」
「じゃ、じゃあ!」
「そ、そんなじっと見るな。まあ、その……す、好きにしろ」
「やった! ありがとう! 雅人!」
「ど、どういたしまして」
こうして僕と彼女の子どもが生まれた。名前は……。




