やります
ついに耳かきが始まった。
鼓膜が破れないか心配だ。
「童子……お願いだから、優しくしてくれよ?」
「はい、もちろんです」
その笑顔は何なんだ?
というか、その『もちろん』は信用していいのか?
「それじゃあ、始めますよー」
「お、おう」
僕が目をパチクリさせていると、夏樹(妹)がニコニコ笑いながら、僕の近くにやってきた。
「お兄ちゃん、大丈夫ー? なんかすっごく緊張してるように見えるよー」
「あー、ま、まあな」
妹は僕の頬を人差し指でつつく。
「ダメだよ、お兄ちゃん。力を抜かないと厄介なことになるよー」
「や、厄介なこと?」
なんとなく想像できるな。
「まあ、よっぽどのことがない限り大丈夫なんだけど、耳の中ってデリケートだから、ちょっと刺激しただけですぐ血が出ちゃうんだよ」
「ま、まあ、そうだな」
やめてくれ、それ以上、聞きたくない。
「それでね、それに気づかないまま生活してるとね、たまに耳の中が全部、血で埋め尽くされて」
「夏樹、それ以上はやめてくれ。頼む」
お願いします、許してください。
「……あっ」
「え?」
おい、童子。
今の『……あっ』は何なんだ?
「かなり奥の方に『アレ』があります。どうしてやりましょうか?」
「届きそうなら、やってほしい……かな」
まったく、ビックリさせるなよ。
「分かりました。では、夏樹さん。お願いします」
「はーい」
え? ちょ、いったい何をするつもりなんだ?
「それー!」
夏樹は黒い長髪で僕の体を拘束した。
「あのー、夏樹さん。これはいったい」
「お兄ちゃん……じっとしててね? すぐ終わるから」
やめて! 笑顔でそういうこと言わないで!
怖い! 怖いよ! 夏樹。
「それでは、やります」
童子! その言い方やめろ!
余計に怖くなるから!
「安心してください。死にはしませんから」
もう……やめて……ください。
その後、特に事故は起こらなかったそうだ。