空鬼
はぁ……やっと放課後だ……。
「放課後だー! 雅人ー! 早く帰ろうよー!」
「え? ああ、そうだな」
「どうしたの? 顔色悪いよ?」
主にお前が原因だなんて言ったら責任感じそうだから言わないでおこう。
「大丈夫。いつものことだから」
「そうなの?」
「ああ、そうだ」
「そっか。なら、いいけど」
姫凛(僕と凛の娘)がうちの高校の生徒になると言い出した時は少し焦ったが、なんとかやっていけそうでほっとした。
「よし、じゃあ、帰るか!」
「うん!」
僕たちが教室から出ようとすると黒板から何かが出現した。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「な、何あれ!! もしかして鬼!?」
「姫凛! 逃げるぞ!」
「う、うん!!」
あの鬼、黒板というか黒い穴から出てきたな。もしかしてあいつは空間をこじ開けたのか?
「姫凛! 窓から飛び降りるぞ!」
「え!? 窓から!? 危ないよ!!」
「あいつに殺されるよりかはマシだ。さぁ、僕の背中に乗るんだ!!」
「う、うん」
今の僕には鬼の力も妖怪の力も使えない。殺意を込めた拳が当たれば大ダメージを与えられるが、当たらなければ僕はおそらく死ぬ。そしておそらく姫凛も死ぬ。それは絶対にあってはならない。
「よし、行くぞ!!」
「うん!」
僕は廊下の壁や窓ガラスを割りながらこちらに迫ってくる鬼が僕たちを攻撃する前に窓から飛び降りた。あと少し判断が遅れていたら僕たちは死んでいただろう。だが、安心するのはまだ早い。うまく着地できなければ追いつかれる。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
例の鬼が僕たちを鋭い爪で引き裂こうとした時、こけしのような見た目の妖怪が現れた。
「まったく、地獄のセキュリティはガバガバですね」
彼女は例の鬼を鎖で拘束すると僕たちを両手で受け止めた。まあ、彼女の両手ではなく彼女が作った大きな両手だが。
「ありがとう、童子。助かったよ」
「まったく、今のあなたはほぼ人間なんですからあまり無茶をしないでください」
「いや、でもそうしないと死にそうだったから」
「うわああああああああああん!! 怖かったよー!」
「おー、よしよし、怖かったなー。ところでこの鬼は何なんだ?」
「空間を切り裂き、空間を食らう鬼……空鬼です」
「空鬼? そんなのいるのか?」
「地獄にしかいません」
「え? じゃあ、地獄からこっちの世界に来たってことか?」
「でしょうね。まあ、普通なら地獄の結界に弾かれるのでこちらの世界に干渉することはできません。ですが、これはそれを突破してきました」
「それって地獄の結界が機能してないってことか?」
「いえ、機能はしています。ただ、結界に何らかの欠陥があるのかもしれません」
「それ、かなりまずくないか?」
「非常にまずいです。このままだとこの世は地獄と化します」
「そうか。なら、早くどうにかしないといけないな」
「安心してください。私がなんとかしますから」
「分かった。あっ、そうだ。なあ、童子」
「何ですか?」
「春巻き作る約束、忘れてないよな?」
「もちろんです」
彼女はそう言うと空鬼と共に地獄に行ってしまった。童子、一人で大丈夫かなー。




