へえ、やるじゃない
修行開始。
「それじゃあ、まずは全力であたしの顔面を殴りなさい」
「え?」
「大丈夫。あたしそこそこ強いから」
「鬼姫。お前は妖怪だけど一応女の子だろ? 男の僕が一方的に殴るのはちょっと」
「大丈夫よ。あたしはあんたより強いんだから」
「そうか。じゃあ、やるぞ?」
「ええ、いいわよ」
なんの前触れもなく実家の庭に風が吹く。僕はそれに背中を押されて彼女の顔面を思い切り殴った。もちろんグーで。
「ふーん、まあ、こんなものよね」
「え? 痛くないのか?」
「殺意がない拳なんて全然痛くないわよ。ということで今度は殺意込めなさい」
「そ、そんなこと急に言われてもなー」
「へえ、じゃあ、今からあんたの妹を殺してもいいのね?」
「はぁ?」
「どうしたの? 早くあたしを止めないとあの子死んじゃうわよ?」
「おい、鬼姫」
「なあに?」
「夏樹に手を出すな」
「え? なんだって?」
「夏樹に! 手を出すな!!」
「……へえ、やるじゃない」
「え?」
「ほんのちょっと痛かったわよ」
「お前もしかしてわざと」
「はいはい、今の感じでもう一回やってみて。ほら、早くしなさいよ。朝になっちゃうわよ」
「あ、ああ、そうだな」
あー! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 何なのよ! 今の一撃!! 人間がくらってたら即死してるわよ! はぁ、これが愛の力ってやつなのかしら。




