あー……チュ♡
山本家……リビング……ソファ付近……。
「夏樹、心の準備はできたか?」
「う、うん!」
「よし、じゃあ、ゆっくり近づけるぞ」
「う、うん」
「落とさないように気をつけるんだぞ」
「う、うん」
「夏樹、力みすぎだ」
「あっ、ご、ごめん」
「大丈夫。焦らなくていい。これから大きな卵を持つんだと思え」
「大きな卵……」
「あー」
「あっ、姫凛ちゃん起きちゃった」
「大丈夫だ。まだ完全に起きてないから」
「う、うん」
僕が姫凛を夏樹の腕に預けると姫凛は夏樹の黒い長髪を引っ張った。
「私の髪に気安く触るな!!」
「う……う……うえええええええええええええええん!!」
「あー、今のはどっちも悪いな。夏樹、いきなり怒鳴るな。姫凛がビックリしちゃうから」
「……はーい」
「姫凛、髪は女の子にとって命より大事なものだから許可なく触ると今みたいに怒られるぞー」
「グスッ……グスン……エウッ……」
僕が姫凛を抱っこして彼女の頭を撫でてやるとすぐに泣き止んだ。相変わらず泣き止むの早いな。
「よしよし、姫凛はいい子だなー」
僕が彼女の頬を撫でると彼女は僕の指を咥えた。
「あー、こらこら、そういうのは自分の指でするものだぞ」
「あー」
「そうか。嫌なのか」
「あ、あのー、旦那様」
「なんだ? 凛」
「わ、私にも姫凛ちゃんを抱っこさせてください」
「ああ、分かった。ほら、姫凛。お母さんだぞー」
「やっ!」
「ガーン!」
「な、なんでだ? こういうのって普通逆だろ」
「どうかな? 凛ちゃんの好きって気持ちが姫凛ちゃんにも継承されてたら、そうなってもおかしくないと思うよ」
「え? 凛って僕のことそんなに好きなのか?」
「はい! 大好きです!!」
「あー!!」
「お兄ちゃんモテモテだねー」
「うーん、自分の娘はさすがにちょっとなー」
「あー……チュ♡」
「あー! 姫凛ちゃんがお兄ちゃんのほっぺにキスしたー!」
「そ、そんな! まだ生まれて半日くらいしか経ってないのに!」
「い、今のはあいさつだろう」
「あー!」
「違うってさー」
「うー! なんか負けた気がしますー!」
「凛、気にするな」
「は、はい」
「へっ!」
「な、なんか姫凛ちゃんが勝ち誇ってますー!」
「ええ……」
「あー!」
「うええええん! 娘に旦那様を奪われましたー!」
「凛、落ち着け。気にするな」
「うええええん! 旦那様ー! 慰めてくださーい!」
「はいはい、よしよし」
「なんか赤ちゃんが二人いるみたいだねー」
「だなー」




