黒鬼髪
どうしてでしょう。雅人さんとハグをしているとすごく落ち着きます。
「私は機械……。でも、こうしているとすごく落ち着く」
「え?」
「カプセルン、お前の体はたしかに機械だけど、多分お前は元人間だ」
「そ、そんなことありません! だって、私には」
「臓器がない……。まあ、たしかにないが……お前のコアだけは心臓っぽいぞ」
「そ、そんなことありません! 私のコアは全然心臓っぽくありません!」
「そうか。でも、人型モードのお前見てるとそっちの方が生き生きしてるぞ」
「え? そ、そうなんですか?」
「ああ、そうだ。ほら、その照れた顔も普通の女の子っぽいぞ」
「わ、私は機械です! そのへんの下等生物と一緒にしないでください!」
「下等生物ねー。一応僕もその一員なんだが」
「あー! すみません! 今のは少し言いすぎました!」
「そうだな。今のはちょっとダメだったな」
「うー……私、機械なのにどうしてこんなにダメダメなんでしょうか」
「元人間だからじゃないかな」
「それはないです! だって、私は元からカプセルで……。あれ? 私、本当に元からカプセルなんでしょうか。あれ? あれれ?」
「カプセルン」
「ひゃ、ひゃい!」
「今のは僕の予想だ。だから、気にするな」
「は、はぁ」
「さてと、そろそろ帰るか」
「そうですねー」
僕がベンチから離れるとグサッ! という何かが何かを貫く音が聞こえた。僕はゆっくりカプセルンのいる方を見た。するとそこには黒い大きな棘のようなものでコアを貫かれているカプセルンの姿があった。
「……っ!!」
「あ、れ? なに、これ」
「なあ、少年……。私の髪はきれいか?」
「髪、だと?」
たしかに彼女の胸部を貫いているのは黒い長髪だった。夏樹(僕の実の妹)ほどではないが、まあまあきれいだ。
「うーんと、とりあえず彼女を解放してくれないか? 黒鬼髪」
「ほう、私を知っているのか」
「ああ、知っているとも。あっ、もしかして近くに白い方もいるのかな?」
「どうやらお前はただの人間ではないようだ。少年、あとで名前を教えてくれ」
「分かった。それより早く彼女を解放してくれ」
「分かった」
「はぁ……はぁ……はぁ……ま、雅人……さん」
「カプセルン! お前、大丈夫なのか!?」
「はい……。黒髪に貫かれる直前にコアを胸からお腹の方に移動させましたから……」
「そうか。でも、だいぶ弱ってるじゃないか」
「あははは、生命力が全然足りませんね……。雅人さん、しばらく私の手を握っていてください」
「そうすれば自己修復できるんだな?」
「はい。まあ、できればキスの方が……」
「え? 何だって?」
「いえ、なんでもありません。えっと、それじゃあ、よろしくお願いします」
「ああ、分かった」
僕が彼女の手を握ると彼女は少しだけ元気になった。
「少年、お前の名前を教えてくれ。あと、私の髪はきれいか?」
「僕の名前は『山本 雅人』だ。あと、お前の髪はまあ、そこそこきれいだ」
「そうか。よし、決めたぞ。お前を私のものにする」
「……え?」
山本家のリビング……。
「はっ! お兄ちゃんが誰かに狙われてるような気がする! 童子ちゃん! 鬼姫ちゃん! 一緒に来て!!」
「はい、分かりました」
「えー、やだー」
「お願い! 鬼姫ちゃん、一緒に来て! 童子ちゃんだけじゃ不安なの!」
「はい?」
「そうよねー。あたしより弱い座敷童子だけじゃ不安よねー」
「私はあなたより弱くありません!」
「そうだっけ?」
「二人とも早くついてきて! 早くしないとお兄ちゃん食べられちゃうよー!」
性的に……ですか。
そういえば、あいつの味見してないなー。あー、やばい。ちょっと血吸いたくなってきた。
「それは困ります」
「うん、普通に困るわね」
「だよね! じゃあ、行こう!!」
「はい!」
「はーい」




