いじめたくなっただけ
風呂から出た後、僕は妹の髪を乾かした。
ついでに座敷童子の髪も乾かした。
妹は僕が髪を乾かしている間、歯磨きをしていた。
もちろん、後頭部にあるもう一つの口の方にある歯も磨いていた。
座敷童子はその様子を横目で見ながら、歯磨きをしていた。
僕が座敷童子の髪を乾かしている間、妹は座敷童子の頬を人差し指でつついていた。
妹はニコニコ笑っていたが、座敷童子はずっと頬を膨らませていた。
「お兄ちゃん、一緒に寝ようよー」
「え? あー、まあ、いいけど」
妹は「やったー」と言いながら、僕の右手を掴む。
その直後、座敷童子が僕の左手を掴んだ。
「今日は私と一緒に寝てください」
「え、えーっと、どうしてだ?」
僕が彼女にそう訊ねると、彼女は僕の腕に抱きついた。
「それは……私がそうしたいからです」
「そう言われてもな……」
僕が妹の方に目をやると、妹はニコニコ笑っていた。
おい、まさか。
*
「今日は三人一緒に寝られるねー」
「そ、そうだな」
僕と妹と座敷童子は僕の部屋にあるベッドに横になっている。
「どうしたんですか? もしかして緊張してるんですか?」
「いや、別にそんなことは……ない」
座敷童子は僕の耳元でこう囁く。
「本当ですか? 違いますよね? 本当は風呂上がりの女の子の肌の感触に欲情してるんですよね?」
「ち、違う! 僕は欲情なんてしてない!」
座敷童子は僕の耳を甘噛みすると、僕をギュッと抱きしめる。
「嘘……ですよね?」
僕は妹の方に目を向ける。
その直後、座敷童子は僕の耳元でこう囁く。
「じゃあ、どうしてこんなに心臓の鼓動が速くなっているのですか?」
「そ、それは……」
妹は僕の胸に顔を埋める。
その後、黒い長髪を僕の体に巻きつける。
「それは、何ですか? 何か言いたいことがあるのですか?」
「さっきから何なんだよ! 僕が何かしたか!」
座敷童子は僕の頭を優しく撫で始める。
「いいえ、別に何も。ただ、少しいじめたくなっただけです」
「なんだよ……それ」
彼女は彼の額に『寝』という文字を書いた。
その直後、彼はすぐに眠りについた。
彼女は微笑みを浮かべながら、静かに眠りについた。