ちんちくりん二号
なぜ僕が時間稼ぎをしているのか。
まず、はぐれ死神『リリナ・デスサイス』は童子セカンドの魂を半分引っこ抜いている。これにより、彼女は抵抗したくても抵抗できない。
次に、今の僕は鬼の力だけでなく各都道府県の代表妖怪の力も使えなくなっている。
最後にリリナ・デスサイスが放っている不思議なオーラにより、この場から逃げられなくなっている。
しかし、呼吸や会話はできるため時間稼ぎくらいならできる。まあ、逆にそれくらいしかできないのだが。
「さてと、厄介な文字使いが来る前にさっさと家に帰りましょうかね。さぁ、おとなしく私のモルモットになりなさい」
「おい、そいつはあたしの所有物だ。勝手に持って帰ろうとするな」
「……! やっと……やっと本気の鬼姫ちゃんと戦えるんだねー! さぁ! 私と戦いましょう! そして、一緒にあの世へ行きましょう」
「……死ね」
「カハッ!?」
「今のあんたにあたしと戦う資格も権利もない。来世があったらまた会いましょう」
「……うん!」
彼女は笑顔のままパタリと倒れた。やっぱり恐ろしいな、言霊の力。
「大丈夫? ケガしてない?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「わ、私も大丈夫です!」
「あんたには訊いてないわよ」
「あっ、ご、ごめんなさい」
「冗談よ。さぁ、早く帰りましょう」
「え? こいつはどうするんだ?」
「死神業界はいつも人手不足だから、きっと魂回収されるわよ。で、記憶を消された後、また死神として生きることを強いられると思うわ」
「そ、そうなのか」
「それより、あんたはもうただの人間なんだから護衛なしで外に出るのはやめなさい」
「いや、僕一応高校生だから」
「だから何? 命より大事なものなんてあるの?」
「え、えーっと……か、家族、とか?」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、あんたをあたしの家族にすれば、あたしの言うこと聞いてくれるのね」
「待て待て、お前にそんなことできるのか?」
「できるわよ。ほら、こんな風に」
「だ、ダメー! 雅人に近づかないで!!」
「何よ、ちんちくりん二号。殺されたいの?」
「う、うるさい! それより今、雅人を自分の眷属にしようとしたでしょ!」
「家族なんて元は赤の他人でしょ? それに家族の形に正解なんてないんだから、あたしがこいつに何をしようがあたしの勝手でしょ?」
「そんなの私が許さない! 雅人は私が守る!」
「何が不満なのよー。あたしがこいつと結婚すればいいの? それとも一線を超えればいいの?」
「そ、それはダメー! 雅人はお姉ちゃんと結婚するんだからー!」
「ね? 雅人!」
「え? いや、その、えーっと」
「座敷童子と結婚してもいいことないわよ。だからさ、あたしと結婚しなさいよ。あんたのことはあんたより知ってるからきっと幸せになれるわよー」
「うー! そんなことないもん! お姉ちゃんだって毎晩雅人の部屋に忍び込んで色々研究してるんだから!」
「え? そうなのか?」
「うん、そうだよ。あっ、一応私も同行してるから、その……色々知ってるよ」
どいつもこいつも研究熱心だなー。
「帰りが遅いと思ったら、こんなところで何をしているのですか? さぁ、早く帰りますよ」
「あっ! お姉ちゃん! ねえねえ、聞いて聞いて! 雅人がね、お姉ちゃんと結婚したいって」
「言ってないぞー」
「そうよ、こいつはあたしと結婚するんだから。ねー?」
「いや、しないよ」
「はぁ? なんでよー」
「うーん、なんとなく?」
「何よ、それー」
とかなんとか言いながら僕たちは帰宅した。




