お兄ちゃんの心臓を半分食べたからだよ
そういえば、まだ使ってない力あるなー。うーん、どれ使ってないんだっけ? まあ、いいや。全部使ってみよう。
昼休み、僕は各都道府県の代表妖怪の力を全て使用した。地味なものもあればこの星を滅ぼしかねないものもあったから使用者の性格が荒れていたら、一瞬でこの世界は滅びているだろう。
放課後、僕は一人で屋上までやってきた。僕が人でいられる時間はもうほとんどない。だから、人でいられるうちに自分の人生を終わらせるのだ。
「はぁ……卒業はできなさそうだな」
夕日は応答しない。それは当たり前のことだが、もしかしたら応答してくれるのではないかと期待している自分がいる。
「高校二年にもなってこんなことを考えるなんて、僕はいつまで経っても子どもだな」
「ううん、私にとっては大切なお兄ちゃんだよ」
「……夏樹、どうして来たんだ?」
「ねえ、お兄ちゃん。少し前、私が暴走したせいでお兄ちゃんを瀕死状態にしちゃったよね」
「ああ、そうだったな」
「あの事件の後、私誓ったの。絶対にお兄ちゃんを一人で死なせないって」
「そうか。でも、お前のその誓いは」
「ダメだよ、お兄ちゃん。一人でなんて死なせてあげない。さぁ、早くこっちに来て。そっちには何もないよ」
「何もない……か。たしかにそうかもしれないな。でも、僕がそっちに行ったらきっとお前は後悔するぞ」
「後悔なんてしないよ、絶対に」
「なぜ言い切れる?」
「私がお兄ちゃんの心臓だからだよ」
「……お前は何を言ってるんだ? そんなことあるわけ」
「私ね、本当ならもうとっくに死んでるんだよ」
「な、何を言ってるんだ? お前はこうしてちゃんと生きてるじゃないか」
「それはお兄ちゃんの心臓を半分食べたからだよ」
「え?」
「私の髪はね、燃費が悪いから霊力消費量が半端ないの。だから、私はいくら食べても太れないんだよ。しかもそれは一生治らない」
「な、なんだよ、それ」
「でも、お兄ちゃんの心臓を半分食べれば私の心臓もお兄ちゃんと同じくらい霊力を作れるようになる。だからね、お兄ちゃん。お兄ちゃんの居場所は私の髪がお兄ちゃんの体内になくても分かるし、お兄ちゃんがピンチになったらなんとなく分かるんだよ。ちょっと怖いけど、お兄ちゃんの心臓が教えてくれてるみたいだよね」
「そ、そんな話、僕は知らな」
「知らなくて当然だよ。私とお父さんとお母さんしか知らないことなんだから」




