風呂
え? それからどうなったのかって?
それは……まあ、別に何も起こらなかったとしか言いようがない。
晩ごはんを食べて、バイトに行って、それが終わったら家に帰って……あっ、そういえば、今日はみんなで。
「お兄ちゃん、お帰り」
「ん? ああ、ただいま。まだ起きてたのか?」
妹は僕の元に歩み寄る。
「うん、起きてたよ。お風呂……一緒に入りたかったから」
「何だって? じゃあ、今日は童子と一緒に入ってないのか?」
妹はコクリと頷く。
玄関は真っ暗。
妹の黒い長髪が僕の体に絡みついてくる。
抵抗しようとは思わない。
別に危害を加えようとしているんわけではないからだ。
妹なりの愛情表現。
僕はいつもそう思うことにしている。
「……えーっと、じゃあ、一緒に入ろうか」
「うん!」
その様子を見ていた座敷童子は二人が来る前に風呂場に向かった。
「……どうして童子ちゃんがここにいるの? さっき入ってなかった?」
「あれはシャワーを浴びていただけです。湯船に浸かってはいません」
なんかまたケンカが始まりそうなんだが。
「ま、まあ、いいじゃないか。たまには、みんなで入るのもいいと思うぞ?」
「……お兄ちゃんがそう言うのなら、別にいいけど」
よ、良かった。ケンカが始まる前にどうにか対処できたぞ。
「お兄ちゃん、髪洗ってー」
「お、おう」
僕が妹の髪を洗い始めると、座敷童子が湯船から出てきた。
その後、彼女は僕の背中を洗い始めた。
「あのー、童子さん。何をしているんですか?」
「今日は色々と迷惑をかけてしまったので、これはそのお詫びです」
お詫び?
別に頼んでないのだが。うーん、まあ、いいか。
「分かったよ。ただし、変なことはするなよ?」
「変なこと? それって、こういうことですか?」
彼女は僕の耳を甘噛みした。
「……!? そ、そうだよ! そういうことだよ! 分かってるなら、やるなよ!」
「やるな? もうしないでください、お願いします! でしょう?」
な、なんだ? なんか嫌な予感が……。
「ほら、早く言わないと、もっとすごいことしちゃいますよ?」
「わ、分かったよ、言うよ。えっと、もうしないでください、お願いします!」
座敷童子はニヤリと笑うと、彼の頭を洗い始めた。
「いや、頭は自分で洗えるから、やらなくていいよ」
「まあまあ、そう言わずに……ね?」
な、なんだ? さっきから妙に色っぽい声が聞こえる。
「お兄ちゃん、どうしたの? 手が止まってるよ」
「え? あー、ごめん。ちょっと考え事してた」
妹が「へえ、そうなんだ」と言うと、座敷童子は彼の頭に洗面器に入ったお湯をかけた。
「ちょ! お湯をかけるなら、先に言えよ! びっくりするから!」
「すみません。次からは気をつけます」
なんだ? 今度は妙に素直になったな。
「ま、まあ、分かってくれたのなら、別にいいんだけどさ」
さてと、そろそろ夏樹(妹)の髪にお湯をかけてやろうかな。