タイミング間違えた
僕と夏樹が座敷童子の体を揺すると、彼女はゆっくりと目を開いた。
「……ん……ん?」
「よう、気分はどうだ?」
彼女は不機嫌そうな表情を浮かべながら、上体を起こした。
「最悪です……。というか、あなたは今、どちらなのですか?」
「安心しろ。今は鬼姫に体を支配されてないから」
彼女は「そうですか」と言うと、妹に目を向けた。
「先ほどは……その……すみませんでした。熱くなってしまって」
「えっと……その……私も童子ちゃんの話を聞かずに暴走してたから、その……ごめんね」
二人は少し気まずそうに握手をした。
「はぁ……やっと仲直りしたわね……」
『…………』
あっ、ごめん。タイミング間違えた。
「あー、その……今のは……」
「ねえ、お兄ちゃん……」
妹の黒い長髪が僕を拘束する。
「な、なんだ?」
「今……鬼姫ちゃんの声が聞こえたんだけど、もしかして半分くらい体を支配されてたんじゃないの?」
お前、いつから聞いてたんだ?
さ、さぁ……?
ふざけるな! これから夏樹に何されるか分からないんだぞ!
ま、まあ、それは……その……ごめん。
そ、そんな……。
「お兄ちゃん、早く答えて。ほら、早く」
「え、えーっと……その……はい、そうです。半分くらい体を貸していました。でも、自覚はなかったんです。本当です、信じてください」
妹は僕の頭に手を置いた。
このまま握り潰されるかと思ったが、それは違った。
「お兄ちゃんは別に悪くないよ」
「え?」
妹は優しく僕の頭を撫でる。
「自分の中に他の誰かがいる人なんて、ほとんどいないんだから、仕方ないよ」
「そ、そうか……」
妹はニッコリ笑うと、僕の頭を執拗に撫で始めた。