どうしようかなー
私が目を覚ますと、私の目の前にお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんはスウスウと寝息を立てている。
「……お兄ちゃん」
私はお兄ちゃんの頬に手を伸ばす。
「……!?」
お兄ちゃんの頬に触れた時、誰かの記憶の一部が私の頭の中に流れた。
「……今のは……いったい」
「あっ、起きたの? もう少し寝てても良かったのよ?」
私はその声を耳にした瞬間、黒い長髪の先端をお兄ちゃんであってお兄ちゃんではない人物に向けた。
「私はお兄ちゃんと話がしたいの。だから、引っ込んでて!」
「いやだ、と言ったら?」
この女、邪魔!
「あなたをお兄ちゃんの中から追い出す!」
「それはこの体の持ち主が死ぬか、この体の持ち主の子どもが生まれないと無理ね」
前者はしたくないし、後者は……今は無理。
この女がお兄ちゃんの体を支配している限り、私は後者をしたくない。
だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんの体と心がないとお兄ちゃんじゃないもの。
「そう。なら、せめてお兄ちゃんと話をさせて」
「えー、どうしようかなー。別に話をさせてあげてもいいけど、あたしは常に周囲を監視してるから、変なことをしようとしたら、すぐに止めるからね?」
そんなことするわけ……いや、今の私なら、やりかねないな。
「分かった。約束する。だから、お兄ちゃんと話をさせて」
「あたしみたいな鬼と約束しても、いいことないわよ?」
いちいち煽るな!
「今はそんなことどうでもいいの! とにかく早くお兄ちゃんと話をさせてよ!」
「はいはい、分かりましたよー」
鬼姫がそう言った直後、彼女は彼に体を返した。
「おっ……元に戻った」
「お……お兄ちゃん、なの?」
え? あー、そうか。さっきまで鬼姫と入れ替わってたから疑ってるんだな。
「あー、そうだよ。夏樹のことなら何でも知ってる唯一の存在だよ」
「……! お兄ちゃん!!」
妹は僕に抱きつく。
黒い長髪が嬉しそうに僕の体に巻きつく。
少し苦しいが、まあ我慢できなくはないから大丈夫だ。
「なんかごめんな。座敷童子に声を出せないようにされていたとはいえ、何もできなくて」
「ううん、私の方こそごめんね。私、自分のことしか考えてなかった」
自覚はあったのか。
「いや、僕が夏樹のことをもっと考えていれば、こんなことにはならなかった。だから、悪いのは僕の方だ」
「ううん、私の方が悪いよ」
なんてことが数十回続いた。
「まあ、とにかく座敷童子と話をしよう」
「うん、そうだね」
そんな感じで二人は座敷童子を起こすことにした。




