上書き料
行ったか……。
「あ、あの……」
「ん? なんだ?」
「そろそろ手、離してください」
「え? あー、ごめん」
舌抜き女から逃げるのに夢中ですっかり忘れてた。
「い、いえ、大丈夫です」
なんか顔赤いな。熱でもあるのかな?
ど、どうしよう。この人の顔、直視できない。
「あー、えーっと」
「お兄ちゃん!」
「旦那様!」
玄関の扉を勢いよく開けたのは夏樹(僕の実の妹)と凛(狐っ娘)だった。
あー、しまった。何も言わずに帰ってきてしまった。
「お兄ちゃん、大丈夫? いきなり走り出すからビックリしたよ」
「私もビックリしました! 心臓が止まるかと思いました」
「はははは、二人とも大袈裟だなー」
僕がそんなことを言っていると座敷童子の童子がヌッと現れた。
「おかえりなさい」
「え? あー、ただいま」
「ごはんとお風呂と私、どれにしますか? ちなみにオススメは私です」
「あー、えーっと、ごはんにしようかなー」
「分かりました。ん? 雅人さん、何かにマーキングされてますね。上書きしてあげます」
「え? ちょ、なんだよ上書きって」
彼女は僕の耳を甘噛みすると僕の耳に息を吹きかけた。
「い、いきなり何するんだ! 発情してるのか!」
「違います。今のは上書き料です」
「そ、そうか。で、でも、いきなりはズルいぞ」
「おや? 今朝、夏樹さんに」
「あー! ごめん! 頼むから言わないでくれ!」
「さて、それはどうでしょうね」
「そ、そんなー!」




