強
座敷童子は自分の額に『強』と書いた。
「夏樹さん! 考え直してください!! 今ならまだ間に合います!」
「そうだね。けど、ごめんね。私はもう、この気持ちを心の中に押し留めておくことはできないの」
妹は黒い長髪を鞭のように動かしながら、座敷童子を攻撃し始めた。
「ダメです! 兄妹は兄妹のまま、一生を終えるべきです!」
「そうかな? 私はそうは思わないよ。というか、お兄ちゃんもそう思ってないみたいだよ」
まあ、否定はしない。
「簡単に幸せになれると思わないでください! 今の関係以上になろうとすれば、必然的にあなた方はさまざまな困難に悩まされます!」
「そうだね。けど、それを一緒に乗り越えていければ問題ないよね?」
この娘の頭の中は兄のことしかない。
この娘にとっては兄が全て。
そして兄にとっては妹が全て。
どちらかが欠けてしまえば、どちらも消えてしまう。
「それがどれほど大変なことか分かっているのですか!」
「そう言う童子ちゃんは分かってるの? ねえ、分かってるの?」
たしかに私には分からない。
けど、それがこの二人にとって最善の選択ではないことは分かる。
私にできることは、この二人を……特に妹の方を止めることだけ。
「……止めてみせる、絶対に!!」
「無理だと思うよー。だって……今の私はとっても機嫌が悪いから」




