かわいそうな人
昼休み。
「千夏さん、来たよー」
「あっ、どうぞお座りください」
なぜに敬語? まあ、いいや。
「どうもありがとう。えっと、じゃあ食べよっか」
「は、はい」
なんで緊張してるんだろう。まあ、いいか。
「いただきまーす」
「い、いただきます」
「んー! この卵焼きうまいなー」
「そ、そうなんですか?」
「うん、おいしいよ。千夏さんも食べてみなよ」
「は、はい。あむあむ……んっ! こ、これはたしかにおいしいですね!」
「だろう? まあ、全部童子が作ってくれたんだけどな」
「あー、そうなんですか。てっきりあなたが作っているのかと」
「少し前まではそうだったんだけど、あいつ黙ってれば基本的に高スペックだから頼りになるんだよー」
「そ、そうなんですか。なんか憧れちゃいますね」
「いや、頼むから君は黙ってなくてもそこそこいい感じの人になってくれ」
「は、はぁ」
そんなこと言われても私は私にしかなれませんよ。
「ん? 何か言いたそうだな」
「い、いえ、そんなことないです」
「そうかなー? 僕にはそう見えたんだけどなー」
たまーに鋭いですよね、この人。
「まあ、いいや。えっと、一応監視してるから知ってるけど、誰かにいじめられたりとかしてない?」
「はい、大丈夫です」
「もし嫌なことされたらすぐに言ってね。早々に始末するから」
「そ、そんなことする人うちのクラスにいませんよー」
だろうな。だって、このクラスにいるのは……。
「そっか。なら、いいんだけど。あっ、分からない問題とかあったらいつでも相談していいよ」
「は、はい。あっ、じゃあ、一つ質問していいですか?」
「うん、いいよ」
「え、えっと……あ、あなたは誰の味方なんですか?」
私がそう言うとその人は真顔になりました。
「誰の味方だと思う?」
「し、質問を質問で返さないでください!」
「あー、ごめんね。でも、君から見た僕のことを知っておきたくてさ」
「は、はぁ。え、えーっと、最初はいい人なのかなって思ってましたけど、今はかわいそうな人だなって思ってます」
「かわいそう?」
「はい。なんとなくですけど、男子高校生にしては妙に大人っぽいなーというか、自分を常に抑制しているような気がして」
「なるほど、君にはそんな風に見えているのか」
「あー! でも、別にそれをやめてほしいわけじゃないですからね!」
「大丈夫、分かってるよ。ごめんね、ちょっと意地悪しちゃって」
「い、いえ、私の方こそごめんなさい。もう少しオブラートに包むべきでした」
「いや、いいんだよ。こういう時に本音を言ってくれる人がいた方がいいから」
「は、はぁ」
「さぁ、早く昼ごはん食べちゃおう。次、移動教室でしょ?」
「あっ! そうでした! 急いで食べないと!」
なんで次の授業が移動教室だってこと知ってるんだろう。
そりゃ知ってるよ。だって、君がいる校舎や授業内容、人や物なんかはぜーんぶ僕と座敷童子の童子が作ったんだから。




