じゃあ、舌出して
僕が夏樹(僕の実の妹)に事情を話すと夏樹はうんうんと頷いてくれた。これにより今朝の一件はなかったことになった。
「お兄ちゃん、早くしないと童子ちゃんが作った朝ごはん冷めちゃうよ! ほら、早く着替えて!」
「あ、ああ、でもお前はともかく千夏さんの前で着替えるのはちょっと」
「あっ、そっかー。そうだよねー。同性ならまだしも、家族でもない異性と一緒の部屋で着替えると何か起こるかもしれないからねー。千夏ちゃんは私の部屋で着替えさせた方がいいよねー」
「あっ、はい、そうします」
千夏(黒髪ショートの女学生)が僕の部屋から出ようとすると夏樹は彼女の肩を掴み耳元で何か囁いた。その時の夏樹はなぜか笑顔だった。
夏樹が彼女の肩から手を離すと彼女は急いで夏樹の部屋に飛び込んだ。
「夏樹」
「なあに?」
「今、千夏さんに何か」
「何も言ってないよ」
「いや、明らかに何か言って」
「何も言ってないよ」
「いや、でも」
「何も言ってないよ」
「夏樹、頼む。教えてくれ」
「じゃあ、舌出して」
「は? 舌? こうか?」
「うん、それでいいよ。はーい、そのままじっとしててねー」
夏樹はなぜか悪い笑顔を浮かべながら近づいてくる。な、なんだ? いったい何をするつもりなんだ?
「夏樹、ごめん!」
「え? ちょ、なんで私の言うこと聞いてくれな……」
僕が夏樹の唇にキスをすると夏樹は少し驚きつつこんなことを言った。
「お、お兄ちゃん! 今のはズルいよ! でも、嫌いじゃないよ、そういうの。えっとね、私は千夏ちゃんに『やっぱりお兄ちゃんに恋しちゃったんだね。おめでとう、今日から千夏ちゃんは私の恋敵だよ』って言ったんだよ」
「そうか」
「怒らないの?」
「ああ、怒ってもお前がそれを千夏さんに言う前には戻れないからな」
「そっか」
「なあ、夏樹」
「なあに?」
「さっき僕の舌に何をしようとしたんだ?」
「それは……秘密ー」
「そうかー」
僕はそう言うと制服に着替え始めた。




