黙
僕は今、一時的に成長した座敷童子に迫られている。
しかし、僕は何も感じない。
心拍数が増えているのは分かるが、それは興奮ではなく緊張に近い。
「その……ごめんな。成長したお前に迫られても、何も感じないんだ。だから」
「ダメです……」
え?
「血のつながった兄妹がそれ以上の関係になることは許されません。だから、諦めてください。今なら、まだ間に合います」
「たしかにそうだな。けど、僕のこの気持ちは多分、兄妹としての好きでも、家族としての好きでもないんだ。夏樹と一緒にいる時、話している時、触れ合っている時、一緒にごはんを食べている時とかに感じるこれは……多分」
座敷童子は僕をきつく抱きしめる。
「いけません! その気持ちはあなたのこれからの人生を狂わせるものです! 心の中に留めておいてください!!」
「……それは……多分……いや、もう無理だ」
座敷童子は僕をベッドに押し倒す。
「ダメです! あなたと妹さんの子どもができたら、あなたの鬼の力はその子に受け継がれるんですよ!」
「それは分かってるよ。力の使い方は僕が一から教えるし、もしもの時は僕が責任を取る」
座敷童子は僕の両肩を掴む。
「そのもしもが起きないようにするのが私の仕事であり、使命です! ですから、軽々しく決めないでください!!」
その時、座敷童子の結界を破こうとする者が現れた。
「……ねえ、お兄ちゃん……。そこにいるんだよね?」
「んー? おう、いるぞー」
座敷童子は僕の腹を殴ると、元の姿に戻った。
「バカですか! あなたは! わざわざ居場所を教えないでください!!」
「え? なんかまずかったのか?」
座敷童子が何かを言おうとした瞬間、結界が破られた。
「ねえ、童子ちゃん。お兄ちゃんと二人きりで何を話してたの? 私、気になるなー」
「い、いえ、別に何も」
僕が妹に話の内容を教えようとすると、彼女は僕の口に『黙』という文字を書いた。
「えー、本当かなー? まあ、いいけどねー」
「それで? こんな夜遅くに何の用ですか?」
妹は黒い長髪を槍のような形にすると、彼女にその先端を向けた。
「何って……そんなの分かってるでしょー? だからさ、邪魔しないでよ。私は今日、お兄ちゃんを私のものにするんだから」
「残念ですが、私はあなたを全力で止めます。なぜなら、お二人の両親にそうするよう言われたからです!」