河童の聖水
座敷童子の童子が持ってきた『河童の聖水』の取説にはこう書かれてあった。
好意なき者に聖水の効果なし。好意ある者に聖水の効果あり。
後者が聖水を飲むと、その効果は生涯続くおそれあり。原因不明、元に戻す方法も不明。
よって、これは禁忌の薬として河童の里で永久に封印するものとする。なお、酒や調味料として使用する場合のみ購入可。
「……おい」
「何ですか?」
「お前、これどこで手に入れた?」
「河童の里に行けば普通に売っています。というか、スーパーの調味料コーナーにあります。まあ、買う前にどんな用途で使うのか問われるので酒やタバコのようなものですね」
「いや、それはなんとなく分かるからいい。それよりもどうしてそんなものが入ったクッキーを彼女に……千夏さんに食べさせたのか教えてくれ」
「自分の気持ちに素直になってほしかったからです」
こいつに悪意はない。彼女のためになると思ってやった。けど、一応そういうことは本人に伝えておいた方が……いや、伝えたらきっと千夏(黒髪ショートの女学生)は食べなかっただろう。
そうか。だから、童子はそのことを伝えずに彼女に例のクッキーを食べさせたんだな。
はぁ……なんというか敵にしたくないタイプだな、うん。
「そうか。でも、そのせいで彼女は今とても辛そうにしているぞ」
「辛そう? 私には嬉しそうに見えますよ」
「はぁ? そんなことあるわけ」
「……はぁ……はぁ……す、好き……あー、体がふわふわしますー」
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫れすー! 私は元気れすー!」
んー? なんか酒に酔ってる時みたいな感じだな、これ。
「そうか、そうか。えっと、何か欲しいものはないか?」
「……なた」
「え?」
「あなたの愛が欲しいれすー! 私を愛してくださーい!」
彼女は両手を広げながらそんなことを言った直後、夏樹(僕の実の妹)がリビングに現れた。
「お兄ちゃんの愛が欲しいの?」
「うん! 欲しい!」
「そっか。じゃあ、今すぐ死ね!」
「や、やめろ! 夏樹! 今の千夏さんはちょっとテンションがおかしくなってるだけだ! だから、本気にするな!」
「お兄ちゃん、離して! お兄ちゃんの愛はそんなに軽いものじゃないってことをこの女に教えないといけないの!」
「そんなの教えなくていいから、とりあえず落ち着け!」
「ひっく! おやぁ? うるさい虫がいますねー。誰かー、殺虫剤持ってきてくださーい」
「虫? 虫だと? 私は虫じゃない! お兄ちゃんの妹だ!」
「夏樹! 落ち着け! 相手にしちゃダメだ。おい! 童子。なんとかしてくれ!」
「分かりました」
童子が夏樹の胸部にあるブザーを押すと夏樹は軽く絶頂したのち、意識を失った。




