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あの人の手

 僕が家に戻ると黒髪ショートの女学生が出迎えてくれた。


「あっ! おかえりなさい! ん? それってもしかして私の体ですか? そうですよね?」


「え? あー、うん、まあ」


「やったー! やっと体に戻れるー! 短い間でしたがありがとうございました! 明日から日常に戻ります!」


「あー、いや、その」


 どうする? 伝えた方がいいのか? でも真実を伝えたらまた幽体離脱するかもしれない。


「えっと、とりあえず早く体に戻りたいので私の体をリビングまで運んでください。あっ、変なところ触っちゃダメですよ?」


「しないよ、そんなこと。信用ないなー」


「当然です! 男の人はみんなオオカミですから」


 オオカミ、か……。


「あのー、大丈夫ですか? もしかして、お疲れですか?」


「うーん、どうなんだろうな。よく分からないんだ」


「そうですか。まあ、そんなに重くない話だったら聞いてあげますよ」


「ありがとう。でも、大丈夫だよ」


「そうですか。なら、いいのですが」


 僕は彼女の体をリビングにあるソファまで運んだ後、静かに二階の自室へ向かった。


「……あー、なんでこんなにモヤモヤしてるんだろう。はぁ、とりあえず風呂に入って寝るか」


 ベッドの上に横になった状態で左手の手の平を天井に向ける。僕にもっと力があれば彼女の両親を救えていたかもしれない。でも、これ以上力を求めたらいけない気がする。


「あのー、すみませーん。一緒にお風呂入りませんかー?」


 ……は? あの子、いったい何考えてるんだ? 元の体に戻った反動で頭おかしくなったのか?

 僕は重たい体を起こすとドスドスと部屋の扉の前まで歩き少し強めに部屋の扉を開けた。


「君、ちょっと頭おかし……」


「良かった! 生きてた!!」


 彼女は僕を抱きしめるとその場で静止した。


「ど、どうしたんだ? いきなり」


「さっき、すごく辛そうな顔してたので心配になって様子を見に来ました」


「そ、そうか。でも、さっきみたいなこと僕以外に言うなよ? 本気にするバカがいるから」


「あなた以外にあんなこと言いませんよ」


「さっき男はみんなオオカミとか言ってなかったか?」


「あなたは例外です。なんというか、こう本能を理性のつめで引っ掻いているように見えるので」


「なんだ、それ。僕は別に自傷行為なんて」


「してますよ。体じゃなくて心に」


「なんでそんなこと分かるんだよ」


「分かりません。でも昔からなんとなく分かるんです。人の痛みというか弱みというか他人には見られたくないものが」


「そうか。ちなみにこのことは誰かに話したことあるか?」


「ないです。変な子だって思われたくないので」


「そうか。まあ、とりあえず別々に風呂に入って寝よう」


「そんなこと言って私がお風呂に入っている間に死ぬつもりなんでしょ?」


「さて、それはどうだろうね。まあ、君が僕の様子を見に来てくれなかったら、きっと僕は今ここに立っていないだろうね」


「やめてください! 冗談でもそんなこと言わないでください! 命を大事にしてください!」


 命、か……。


「ごめん、今のは僕が悪かった」


「悪いと思っているのなら行動で示してください」


「え、えーっと……」


 僕は彼女を優しく抱きしめると彼女の背中を優しく撫で始めた。


「……ひゃん!」


「……え?」


「い、今のは聞かなかったことにしてください! それじゃあ、お風呂先にいただきます!」


「あ、ああ」


 何だったんだ? なんか嬌声きょうせいぽかったような気がする。気のせい、かな?

 あー! もうー! なんで私、あんな声出しちゃったんだろう。絶対聞かれてるよー! で、でも、あの人の手、すっごく良かった。あの人になら私の全てを捧げてもいいかもしれないなー。え!? ちょ、私何考えてるの! あー! もうー! あの人いったい何なのー!!

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