どっちも違う
鏡の中にいる僕は根暗でネガティブだが、なんとなく放っておけない。
「なあ」
「なんだ?」
「夏樹……妹は元気なのか?」
「え? あー、まあ、元気だよ」
「そうか。えっと、たしか家事はできるんだったよな?」
「まあ、一応」
「料理はするのか?」
「うん」
「じゃあさ、お前が作った料理を妹に食べさせたことはあるか?」
「あるよ」
「その時、妹はどんな顔してた?」
「あー、えーっと、おいしいって言いながら笑ってた」
「そうか、そうか。なら、大丈夫だな」
「何がだ?」
「いや、お前のことが嫌いならお前の作った料理なんか食べたりしないだろうから、そこそこ好かれてるんだなーって思って」
「いや、でも洗濯物の件が……」
「それ、多分誤解してるぞ」
「誤解?」
「お前の妹はいつもお前の洗濯物を別々に洗うようにしている。さて、ここで問題だ。それは思春期の女の子だからやっているのか、それともお前のことが嫌いだからやっているのか、どっちだと思う?」
「えーっと、どっちも?」
「いや、どっちも違う。正解はお前のことが好きだからだ」
「は?」
「いいか? 洗濯物を洗うと洗剤や柔軟剤、あとたまに他の服のにおいがつくことあるよな?」
「うーん、あるような……ないような」
「まあ、最後のは忘れていい。とにかく洗濯することでお前や妹のにおいはほとんどなくなってしまう。それは分かるな?」
「ああ」
「よし、じゃあ、もう分かるな? お前の妹がお前の洗濯物を別々に洗う理由」
「えっと、まさかとは思うが僕の服のにおいを嗅いでいる、のか?」
「正解だ。よく分かったな」
「いやいや、さすがにそれはないだろ。だって、夏樹は毎日僕にプロレス技をかけてきたり勉強中に遊んでーとか言ってくるやつなんだぞ?」
「おいおい、それ明らかにお前のこと好きだぞ」
「え? そうなのか?」
「いや、だってそうだろ。好きでもないやつにそんなこと普通しないぞ?」
「そうか。そうだったのか。毎日僕に嫌がらせをしてくるのは一種の愛情表現だったのか」
「まあ、そういうことだ」
「ありがとう、これからは夏樹とうまく付き合えそうだ」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
鏡の中の僕はそう言うとスーッと消えていった。さて、寝るか。




