禁忌シリーズ
座敷童子の童子の口から発せられた儀式の内容を聞いた時、僕は自分の耳を疑った。
「あー、えーっと、文字の力でなんとかなるんじゃなかったのか? ほら、今朝言ったじゃないか。夕方には角の効果を完全に封じ込められる文字を使えるようになってるって」
「それはかなりデリケートな文字なので外気に触れただけで消滅してしまいます」
「だからって僕とお前が……き、キスする必要はないんじゃないか? 粉末スープみたいに水に溶かしてから飲めば」
「今から使う文字は禁忌シリーズの一つです。禁忌シリーズの文字の効力は私が普段使っているものより良いですが、取り扱いが難しいことで文字使いの間では有名です。なので、私の言うことを聞いてください。別にあなたとキスしたいわけではありませんので」
「嘘だっ! そんなこと信じられない! その禁忌シリーズでお兄ちゃんをメロメロにするつもりなんでしょ!」
「旦那様! ここは私たちがなんとかします! 旦那様は早く逃げてください!」
「夏樹、凛……」
「お二人とも目がハートになっていますよ? 大丈夫ですか? と私が言ったところでお二人には届かないでしょうね。お二人とも少し眠っていてください」
童子が二人の腹に触れると二人とも意識を失った。な、なんだ? 今、何が起きた?
「雅人さん、お願いします。私の言うことを聞いてください」
「なら、お前が角の効果でおかしくなっていないことを証明してくれ。今の僕は誰も信用できないから」
「分かりました。では、私がその角を素手で触っても何も起こらなければ私を信じてください」
「分かった。でも、もし何か起こったら僕はどうすればいいんだ?」
「そんなの簡単ですよ。私を解雇した後、この家から追い出せばいいのです。座敷童子にとって住居がなくなることは鳥の翼を折るのと同じことですから」
「そうか。分かった。じゃあ、始めようか」
「はい」




