白虎閃光拳!!
退治屋の青年が僕に襲いかかる。こいつは口が悪い。が、実力はある。こいつが使うのは拳に霊力を込めて放つ打撃だが、その威力は一撃で山をいくつか破壊できるほどだ。そんなものをまともにくらえば即死だろう。しかし、僕の中にいる鬼を倒すにはそれくらいがちょうどいい。まあ、その衝撃は僕にも伝わるから当然僕もただでは済まないが。
「なあ、どうしてお前はそんなに僕を恨んでいるんだ?」
彼は僕を殴りながら答える。僕はそんな彼の攻撃をなんとか回避している。
「お前の! 体の中にいる! 鬼が! 暴れたせいで! 俺の故郷は! 地盤やら! 空気やら! 建物やら! とにかくいろいろおかしくなっちまったんだよ! そのせいで! 俺の家は! 俺以外、もう誰もいなくなっちまったんだよ! 恨んで当然だろ!」
で、今までその鬼を……いや、僕の居場所やら個人情報やらを突き止めていたと。
「そうだな。けど、僕とその鬼を殺してしまっていいのか? そんなことをしてお前の家族は喜ぶのか?」
「は、はぁ? そんなの喜ぶに決まって」
いや、待て。みんな、最期は幸せそうな顔をしていた。なぜだ? なぜ、みんなあんな顔を。
彼は攻撃を中断すると自分の両手を開いて手相を見た。
「俺の手は、いったい何のためにあるんだ?」
「少し前までは家族のためだった。けど、今は違うんじゃないか?」
「え?」
「まあ、もうすぐお前に殺される僕の言うことなんて頭に残るわけないよな。ほら、いいぞ。早く殺せよ。殺したかったんだろう? 僕と鬼を」
「そ、そうだ。俺は復讐するために今まで生きてきたんだ。今さらやめることなんてできない」
彼が拳にありったけの霊力を込める。
「待ってろよ、みんな。今、終わらせるから」
「早くしないと帰るぞ?」
「帰るな。あともう少しだけ待ってろ、シスコン野郎」
「はいはい」
彼の霊力が拳に集まっていく。これはすごいな、存在ごと消されそうだ。
「我が拳に宿るは悪鬼羅刹を葬る白き輝き。今こそその力で眼前に立ち塞がる障害を討ち滅ぼせ! 白虎閃光拳!!」
「……時間切れだ」
俺の拳がやつの心臓を貫こうとしたその時、俺の両手は曲がってはいけない方向に曲げられていた。
「う、うわああああああああああああああああああああ!!」
「退治屋、あんたはあたしには勝てない。なぜだか分かる?」
「そ、そんなの知らねえよ。けど、これでようやく俺の復讐が終わる。さぁ、おとなしく首を差し出せ」
「残念だけど、それは無理よ」
「な、なんだと?」
「いい? あんたがあたしの魂を消したら、あたしの体から呪いが出始めてこの世の全てを呪いにしちゃうの。分かる?」
「そ、それじゃあ、俺の復讐は」
「あー、うん、諦めて。みんなのために、世界のために」
「ふ、ふざけるな! 俺はそんなの信じねえ! 信じねえぞおおおおおおおおおお!!」
「はぁ……これはもう何を言っても聞く耳持ってくれそうにないわね。よし、決ーめた。鬼火にしちゃおうっと。コホン、えー、鬼火の材料になれ!」
「は? いきなり何を言って……え? な、なんだ? 体から紫色の炎が」
「あんたの心の中にある怨恨の炎はあたしの鬼火をより一層輝かせる。まあ、せいぜい頑張ってね。火が消えたらあんたも消えるから」
「や、やめろ! やめてくれ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あー、いい色。きれい。さてと、それじゃあ帰りましょうかね。明日の朝ごはんはなんだろうなー、へい!」
彼女は鬼火と共に公園を後にした。あー、死ねなかった。ちょっと期待はずれだったな。




