そろそろ限界でしょう?
夏樹(僕の実の妹)が僕の左目にキスをしたいと言った。
僕は一瞬驚いたが、夏樹の望みはできるだけ叶えてあげたいと思ったため許可した。
「それじゃあ、するよ」
「ああ」
「本当にしていいんだよね?」
「ああ」
「後悔しない?」
「しないよ」
「本当に?」
「うん、しないよ」
「そ、そっか。じゃあ、するよ」
夏樹は別に眼球フェチではないが、僕のことが好きすぎておかしくなっている。まあ、今回こんなことになったのは座敷童子の童子が目覚めのツボじゃなくて覚醒めのツボを押したせいなのだが。
「……チュ」
「……どう、だった?」
「うーん……右目もしていい?」
「え? ああ、いいぞ」
「……チュ」
「……どうだ?」
「うーん……お兄ちゃんの味がしたね」
どんな味だよ。
「え、えっと、それだけか?」
「あー、えーっと、目玉の味がしたよ」
「うーん、まあ、そうだろうな」
「あとはねー、お兄ちゃんのことがもっと好きになったよ!」
「え? 今のでか?」
「うん! だって、目玉を舐めたりキスしたりしても全然不快にならなかったんだよ? これはもう体がお兄ちゃんを受け入れてるってことだよ!」
夏樹はいったい何を言っているんだ。変態になっているからこんなことを言っているのか? それとも本心なのか?
「それにこれでお兄ちゃんの体をほぼ舐めることができたから私はすっごく満足だよ!」
「えっと、ちなみにまだ舐めてないところって」
「それ、私が言う必要ないよ。私よりお兄ちゃんの体に訊いた方がいいよ」
「うーん、さすがにそれはできないかなー」
「そうなの? じゃあ、今日お風呂入った時に教えてあげるね」
「え? あー、分かった」
「あー! 緊張したー! お兄ちゃん、私ちょっとお花摘みに行ってくるね!」
「あー、うん、分かった」
私は急いでお兄ちゃんの部屋から出た。お兄ちゃんの目玉を舐めた時……いや、違う。正確にはお兄ちゃんの目玉を舐めたいと思った時だ。その時、私はお兄ちゃんにいけないことをしようと思った。それは……お兄ちゃんの体と心を全部食べること。
でも、そんなことお兄ちゃんに言えない。言っちゃいけない。だって、さっきお兄ちゃんの目玉にキスした時、私はお兄ちゃんの目を本気で食べようとしていたのだから。
「……夏樹さん」
「……なあに? 童子ちゃん」
「そろそろ限界でしょう? もうやめませんか? こんなこと」
「……そう、だね。でも、まだダメだよ。私の好きがお兄ちゃんに届くまでは、ね」
「あなたの小さな体から無限に湧き出ている好きが雅人さんの心に届く可能性はあるのですか?」
「ある……と思いたいね」
「そうですか。分かりました。まあ、危なくなったら私を呼んでください。すぐに解除のツボを押しますから」
「……分かった」




