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十歳

 私がお兄ちゃんのことを兄妹ではなく、恋愛対象として見始めたのは十歳になった年からだ。

 それまでは頼れる兄、優しい兄としか思っていなかった。

 けれど、いつしか兄のことが好きになっていた。

 きっかけは、とある雨の日の夜のことだった。

 豪雨と落雷と暴風が家をこじ開けてきそうだったため、私は自室のベッドの上で体を丸めていた。

 かけ布団で全身を覆い隠して、外界との関係を断ち切っていた。

 その時、兄が部屋にやってきた。

 最初は反応に困っていたが、しばらくすると私のとなりにやってきた。


夏樹なつき、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」


「だ、だって……」


 雷鳴が鳴り響くとおさない私は体をビクンと振動させた。


「そっか。そんなに怖いのか。けど、大丈夫だよ。僕が朝までとなりにいてあげるから」


「ほ、本当?」


 涙目になりながら、おさない私は兄にそうたずねた。


「ああ、本当だよ。だからさ、そんな顔するなよ。可愛い顔が台無しだぞ?」


「か、可愛くなんかないよ。だって、私、頭にもう一つ口があるんだから」


 私がそんなことを言うと、兄はそれを否定した。


「そんなことないよ。お母さんが作った料理をおいしそうにその口で食べてる時の夏樹なつきはすごく可愛いよ」


「そ、そうかな?」


 兄はニッコリ笑うと、私の頭を撫でた。


「ああ、そうだとも。世界中のみんなが夏樹なつきのことを可愛くないって言っても、僕は可愛いと言い続けるよ」


「そ、そこまでしなくてもいいよ」


 兄は私を抱きしめると、優しく私の髪を撫でた。


「僕はそれくらい夏樹なつきのことが好きなんだよ」


 その時、私は恋に落ちた。

 父や母、友達に『好き』と言われても、なんとも思わなかったのに、兄の口からその言葉が出た瞬間、胸の当たりが苦しくなった。

 最初は病気かと思った。

 後日、ネットで調べてみると、私のそれが恋をしている時のものと酷似こくじしていることに気づいた。

 それ以来、私は兄のことをずっと恋愛対象として見ている。

 兄はそれに気づいていないようだが、いつかは届くかもしれない。

 いや、届かない方がいいのかもしれない。

 だって、私は……お兄ちゃんの実の妹なのだから。

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