交接腕
座敷童子の童子は僕の体を隅々まで洗っている。
「雅人さん、知ってますか?」
「何をだ?」
「タコやイカには交接腕といって陰茎の役割をしているものがあるんですよ」
「へ、へえ、そうなのかー」
「はい、なので今日は雅人さんの第三の足を洗って差し上げます」
「いや、なぜそうなる! いいよ、そこは自分で洗うから」
「そういうわけにはいきません。ちゃんと洗っておかないと陰茎がんになりますよー?」
「いや、ボディソープとかシャンプーとかリンスとか使って洗うと傷口に消毒液を塗った時みたいに染みるから水洗いでいいんだよ」
「へえ、そういうのを使って洗ったことがあるんですねー」
「え? あー、まあ、試しに何度か……って、何言わせるんだ!」
「ふふふふ、雅人さん顔真っ赤ですよー」
あ、遊ばれている。見た目は幼女なのに中身は年上だから下ネタ言われるとそういうサービスを受けてるみたいで変な気持ちになるんだよなー。
「う、うるさい! ロリババア!」
「……え?」
あっ、マズイ。絶対ショック受けてる。謝らなきゃ。
「ご、ごめん! 今のは!」
「いえ、いいんですよ。どうせ私は一生子どものままなんですから」
あー、どうしよう。予想以上に落ち込んでる。と、とりあえず励まそう。
「べ、別にいいんじゃないかなー。ずっと子どものままでも」
「え?」
「ほら、一生子ども料金だからなんでも安くなるじゃないか」
「立ったままキスできません」
「寝てすればいいじゃないか」
「結婚しても妹や娘、親戚の子かと思われてしまいます」
「幼妻ですと言えばいいじゃないか」
「マニアックな人たちの視線が怖いです」
「僕が盾になるから大丈夫だよ」
「私、初潮まだです」
「え? いや、待て。お前は妖怪だろ? そういうのあるのか?」
「ないです」
ないのか。あれ? でも童子は人魚の肉を食べて不老不死になった人間の父親と座敷童子の母親の子どもだよな?
うーん、まあ、うちも似たようなものだから夏樹(僕の実の妹)もきっと……いや、待て。どうして僕は夏樹の初潮がまだなのかどうかについて考えてるんだ? 普通に気持ち悪いだろ。そんなこと考えてる兄。
あっ、そういえば僕のことは何でも筒抜けだったな。
「お兄ちゃんってば、お風呂でそんなこと考えてるのー? あー、恥ずかしいー! でも、嬉しいー!」
あっ、なんか今夏樹の声が聞こえたな。まあ、聞かなかったことにしよう。
「そ、そうか。ち、ちなみに妖怪ってどうやって子孫を残すんだ?」
「さぁ? よく分かりません。母はなんか勝手に生まれたと言っていました」
ええ……。
「陣痛とかは?」
「なかったそうです」
「破水とかは?」
「なかったそうです」
「帝王切開」
「する必要がなかったので言葉しか知らないそうです」
ええ……そうなのかー。もしかして僕や夏樹の時もそうだったのかなー?
「そっか。なんか怖いな。ある日突然自分の子どもがいるのって」
「それ、あなたが未来に行けば体験できますよ?」
「まあ、そうだな。けど、まず僕が誰かと結婚してないと体験できないぞ?」
「あー、今の話は忘れてください。あなた以外と生涯を共にする気は全然ないので」
「お、おう。えっと、じゃあ、全員と事実婚するっていうのはどうだ?」
「え?」
「それなら、みんなと結婚できるぞ」
「そうですね。けど、それはかなり大変なことになると思いますよ。今より女難で困ることになります」
「あー、まあ、そうだなー」




