何かな? 少年
怪盗Nは僕と共に教会のステンドグラスではなく扉から出ていった。
「なあ、夏樹」
「私は夏樹ではない! 怪盗Nだ!!」
「そうか。なあ、怪盗N」
「何かな? 少年」
「お前は僕のことを日本の宝と言っていたが、僕はそんなものになった覚えはないし宝じゃなくて爆弾みたいなものだぞ?」
「少年よ。一ついいことを教えてやろう」
「なんだ?」
「人や物の価値は時代や場所によって変化するのだよ」
「そうかなー? 僕みたいな無価値な存在のそばにいてもきっと幸せにはなれないと思うぞ」
「ほう、なぜそう思うんだ?」
「いや、だって頭の中にはほとんど妹に関する情報しかないんだぞ? こんなおかしなやつに価値なんてあると思うか?」
「あるよ」
「え?」
「お兄ちゃんがいなかったら、私きっと今も学校に行けてなかったと思う。私の後頭部にあるもう一つの口は私の体の一部だから切除したら死んじゃう。でも、それがあるせいで嫌なことをたくさん言われた。でも、お兄ちゃんだけは私のことを認めてくれた。たまに突然その口がしゃべり出しても普通に会話してくれたし、その口がいろんなものをたくさん食べててもいい食べっぷりだなーって言ってくれた。私が一緒にお風呂に入ろうって言っても嫌な顔一つせず一緒に入ってくれたし雷が怖いから一緒に寝てほしいって言ったら断らずに一緒に寝てくれた。いつ私のもう一つの口に食べられてもおかしくないのにお兄ちゃんはいつでも私のことを受け入れてくれた。私はそんなお兄ちゃんのこと大好きだよ。と、少年の妹が言っていたぞ」
誰が何と言おうと正体は明かさないようだな。
「そうか。でも、なんか照れ臭いな。僕は自分にできることしかしていないのに」
「頭の中でやろうと思っていることを実際に行動を移せるのは一つの才能だ。だから、もう自分のことを無価値だなんて言うな」
「ああ。でも、結婚式の邪魔をするのってよく考えたら犯罪なんだよなー」
「私は怪盗だぞ? そんなことをいちいち気にしていたら何も盗めないではないか」
「そうだな。でも、あのお姫様、これからどうするんだろうなー」
「彼女のこれからは彼女自身が決める。透明人間だろうと妖怪だろうと決断しなければならない時は必ずやってくる。まあ、ほんの少しだけ希望を与えておいたから彼女がこれからどうするのかなんとなく分かっているがな」
「うん、それは僕にもなんとなく分かるよ。できればそうなってほしくないけど」




