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仲直り

 その日は一日中、妹のことを考えていた。

 別に妹のことが好きすぎるからではない。

 今まで僕に対して、怒りという感情をさらけ出してこなかった妹が僕に対して、その感情をいだいているため、なぜ妹が僕に対して、そんな感情を抱いているのかについて、考えていたのだ。

 まあ、結局それが何なのかは分からなかったのだが。


「……ただいまー」


 いつもなら妹が僕に抱きついてくるのだが、今日はそれがなかった。

 リビングに妹の姿はない。

 二階にいるのだろうか? だとしたら、昼寝中かもしれないな。

 僕はそれを言い訳にして、バイトが始まる時間になるまで家事をやっていた。


 *


 バイトから帰ってきても、妹が僕の元にやってくることはなかった。

 世界でたった一人しかいない妹の機嫌を損ねてしまった僕は最低の兄だ。

 それを未然に防ぐことはできないかもしれない。

 けれど、その理由を導き出すことはできる。

 だが、僕にはそれが分からない。

 いくら考えても、答えを導き出せないのだ。


「……晩ごはんはちゃんと食べてくれたのか。良かった」


 一人で食べる晩ごはんは今までの人生の中で一番まずく感じた。

 味覚がどうこうというわけではない。

 誰かと一緒に……いや、妹と一緒に食べていないから、そう感じたのだと思う。

 もう嫌だ、こんなの耐えられない、仲直りしよう。

 僕はそう決心すると、妹の部屋に向かった。


「……夏樹なつき。起きてるか?」


 妹の部屋の扉の前で立ち尽くしていると、扉の隙間から黒い長髪が僕の右手に絡み付いた。


「……その……僕が夏樹なつきに対して、してはいけないことや言ってはいけないことを言ってしまったのは分かる。けど、いつ、どのタイミングでそれをやってしまったのか分からないんだ」


 だけど……。


「でも、僕は夏樹なつきがいないとダメなんだ。夏樹なつきがいないと僕の存在理由が何なのか分からなくなるし、ごはんもまずく感じるし、何よりむなしくなるんだよ。だから」


 僕が最後まで言い終わる前に、部屋から妹が出てきた。

 妹は黒い長髪で僕を拘束こうそくすると、ベッドまで運んだ。


「……もういいよ」


「……え?」


 妹は僕に体をゆだねる。


「私ね、お兄ちゃんのことが大好きなの。でも、その気持ちはお兄ちゃんに届くことはない。そんなことはずっと前から気づいてた。けど、どうしても諦めたくないの。だからね、お兄ちゃん」


 妹は僕の耳元でこうささやく。


「明日の朝まででいいから、私を抱き枕にして」

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