兄妹
朝起きると、黒い何かに拘束されていた。
はぁ……さては夏樹の仕業だな。
僕の妹は『二口女』である。
正面から見ると普通の女の子だが、後ろから見ると後頭部に口がある。
いつもは髪で隠れているが、食事の時などになるとしゃべり出す。
ついでに言うと、その口は大量に食べ物を食す。
十人前はペロリと平らげてしまうため、食費がすごいことになる。
まあ、それはさておき。
「おーい、夏樹ー。起きろー」
「……えー、やだー」
そうか。嫌なのか。
なるほど、なるほど。
じゃあ、もう諦めよう……なんてことにはならないんだよな。
今日が土曜日なら良かったが、残念ながら今日は金曜日だ。
だから、よっぽどの理由がない限り、学校に行かなくてはならない。
「おーい、夏樹ー。頼むから起きてくれー」
「うーん……じゃあ……私とチューしてー」
寝ぼけているのか?
それともわざと言っているのか?
うーん、分からないな……。
せめて視界が開けていればな……。
「分かったよ。けど、それをするには僕を解放しないといけないぞ?」
「知ってるよー。待っててねー、すぐ解放するからー」
やれやれ、やっと解放されるな。
光が暗闇を照らし、視界が開ける。
ああ、朝日が眩しい。
今日は晴れか。洗濯物、早く干さないといけないな。
僕がそんなことを考えていると、夏樹の両手が僕の両頬に手を添えた。
「お兄ちゃん……」
「ん? なんだ? というか、まず、おはようだろ?」
彼女の息がいつもより荒い。
「うん、おはよう。お兄ちゃん」
「おはよう。それで? これから僕に何をするつもりなんだ?」
妹は僕の額に自分の額を重ね合わせる。
「さぁ? なんだろうね」
「あのなー、夏樹。僕たちは本当の兄妹なんだから、そういうことは好きな人と」
妹は黒い長髪で僕の四肢を拘束すると、馬乗りになった。
「兄妹はそういうことしちゃダメなの? 好きじゃないと、そういうことしちゃダメなの? 誰がそんなこと決めたの?」
「いや……それはその……」
妹は僕の耳元に顔を近づけると、僕の耳を甘噛みした。
「……!? お、おい、夏樹! いきなり何して」
「お兄ちゃんは私のこと、好き? 嫌い?」
嫌い……ではない。
「す、好きだよ。兄妹として……だけど」
「そっか。じゃあ、もういいよ。ごめんね、朝から変なことして」
彼女はそう言うと、ツカツカと一階に向かった。




