文字使い
家に帰ると座敷童子が玄関で仁王立ちをしていた。
「……えーっと、何で怒ってるんだ?」
「別に怒ってなどいませんよ。ただ、私と同じようなことができる妖怪の技を見破れなかったことに腹が立っているのです」
えーっと、こいつはいったい何を言っているんだ?
「……要するに、あなたが覚という妖怪に一時的にとはいえ操り人形にされていたことに気づけなかった自分に腹が立っているのです!」
「あー、そういうことか。それなら、もう大丈夫だ。すんなり解除してもらえたから」
彼女は僕の側にやってくると、ボディチェックをし始めた。
「おーい、何やってるんだー? 盗聴器なんか仕掛けられてないぞー」
「盗聴器ではありませんが、魂の欠片が付いていましたよ」
た、魂の欠片?
「まさかこんなことまでできるとは……」
「おーい、いったい何の話をしてるんだー? ちゃんと説明してくれー」
彼女はガラスのような小さな欠片を握り潰すと、僕の手首を掴んだ。
「では、ゆっくり話しましょうか。あなたがちゃんと理解するまで」
「お、おう」
彼女は僕に生徒会長の『飛美濃 覚』が自分と同じ『文字使い』であることを話してくれた。
どうやら、その昔、文字の力を具現化できる技を習得した妖怪がいたらしい。
その技を継承した妖怪は片手で数えられるほどしかおらず、現代まで受け継いでいるのは座敷童子だけだと言われたいたが、どうやら生徒会長もその一人だったらしい。
「なるほどな。でも、あの人は別に悪い人じゃないよ。だから、そんなに心配しなくても大丈夫だぞ?」
「わ、私は別にあなたのことを心配しているのではありません。自分が未熟なせいで誰かに迷惑をかけるのが嫌いなだけです」
素直じゃないな、こいつは。
「まあ、そういうことにしておくよ。なあ、童子」
「な、何ですか?」
彼は人差し指でポリポリと頬を掻くと、こう言った。
「その……一緒に晩ごはんを作らないか?」
「それは別に構いませんが、バイトに遅刻しないようにしてください」
彼女はスッと立ち上がると、僕の頭を優しく撫でた。彼女のその行動が何を意味しているのかは分からなかったが、少しだけ彼女が素直になった瞬間であった。