おやすみなさい、旦那様
怒っている夏樹(僕の実の妹)を気絶させるほどの力を持っている凛。
この小さな体のどこにそんな力があるのだろう。
まあ、あれは稲荷様の力を借りているだけみたいだったからこの子の力ではない。
けど、それを扱えるということはこの子は将来かなり強くなる可能性があるということになる。
おそろしいものだな、幼女というのは。
ソファの上に座っている僕の膝の上には凛の頭がある。
僕は彼女の狐耳を触りながら、彼女が目覚めるのを待っている。
夏樹は座敷童子の童子によって夏樹の部屋のベッドまで運ばれた。
まあ、いきなり「旦那様!」を連呼する狐の幼女が来たらびっくりするよな。
僕がそんなことを考えていると、凛が目を覚ました。
「ようやく起きたか」
「あー、旦那様の顔が目の前にありますー。ここは天国ですか?」
「残念ながら、ここは天国でも地獄でもない。ここは人と妖怪がうじゃうじゃいる世界だ」
「旦那様はこの世界が嫌いなのですか?」
彼女の瞳の中にいる僕は少し自信がなさそうだった。
「嫌い、ではないと思う」
「では、好きなのですか?」
「うーん、どうだろう。まあ、今のところ半々ってところかな」
「そうですか。えっと、結婚式はいつにしますか?」
「しないよ。卒業するまでは」
「そうですか。分かりました。では、それまで気長に待つことにしましょう。旦那様、おやすみのキスをください」
「は? いや、それはさすがに」
彼女はクスッと笑う。
「ごめんなさい。今のは冗談です。ですが、今日はもう疲れました。私はもう寝ます。おやすみなさい、旦那様」
「あっ! こら! 僕の膝の上で寝るな! ……って、もう手遅れだな」
僕はため息を吐いた後、彼女を僕の部屋まで運んだ。
仕方ない。今日は一緒に寝てやろう。




